男性行員(右)が通帳を紛失した高齢者役を演じ、窓口でのやりとりを検討する=2月、三井住友信託銀行京都支店
通帳を何度もなくす。ATMが使えない。もしかしたら認知症かも?という高齢者が、金融機関の窓口を訪れる場面が増えている。認知症高齢者の家計貯蓄は50兆円を超すという試算もあり、福祉との連携を目指す動きも出てきた。(編集委員・清川卓史)
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特集:認知症とともに
2月26日、京都市の四条烏丸にある三井住友信託銀行京都支店。午後4時半、約40人の行員が研修室に集まった。認知症と思われる顧客にどう対応するかを学ぶ講座に参加するためだ。
講師は、認知症の人の医療選択のあり方を検討してきた京都府立医科大学大学院の成本(なるもと)迅教授をはじめ、社会福祉士、弁護士ら専門家4人。認知症の講義の後、グループにわかれて想定される場面をロールプレイングで再現。認知症と思われる顧客対応を経験した行員が高齢者役を演じ、専門家が助言をした。
最初は「何度も通帳印鑑をなくした高齢者が相談に来た」パターン。「通帳がなくなったんだけど……」と窓口で訴える高齢者に、いかに不快な思いをさせず事情を見極めるか。参加者は慎重にやりとりを重ねつつ「ご家族がお持ちかも知れないので一度お電話してもよろしいですか」などと話をつないでいた。講師は「会話は堂々巡りになりがちだが、『ほかにお困りごとは?』と投げかけると、暮らしの様子が見えることがある」などとアドバイス。社会福祉士の上林(かんばやし)里佳さんは「通帳を何度もなくす人はお金がおろせず、買い物もできなくなり、在宅生活の破綻(はたん)が近づく。こうした変化に気づける位置に皆さんはいる」と金融機関の「気づき」の重要性を指摘した。
2番目の想定は「300万円の預金をおろすよう息子に強要されている疑いがある」パターン。経済的虐待や、息子を装った詐欺の可能性もある。家族への確認、状況によっては行政への相談・通報が必要になるが、判断は難しい。行員からは「個人情報保護に反しないか、気になる」などの質問がでた。
講師の椎名基晴弁護士は、生命・財産を守るため必要な場合の個人情報保護法の例外規定などについて解説。「(本人同意なしの連絡・通報が)悩ましいのはもっとも。会話のなかで『連絡してもいいですか』と本人の承諾をえるのが実際的では」と助言した。
全国の支店にトラブル調査
同行は昨年、全国の支店に認知症関連と思われるトラブルの有無を聞いた。通帳などの再発行依頼を繰り返す事例、「預金残高がおかしい」「誰かに盗(と)られた」などと訴えてくる事例はいずれも9割近い支店が経験。差し迫った課題になっている。京都支店の咄下(はなした)泰男支店長は「信託銀行は遺言関係などで高齢者との取引が多い。認知症の問題に真剣に向き合わないといけない」と話す。
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