過労死110番の最初の相談者、平岡チエ子さん。新聞で過労死の記事を見ると切り抜く。「読むと今も胸が痛い」と話す=大阪府藤井寺市
長時間労働などの電話相談「過労死110番」が今年、30年を迎えた。大阪発の取り組みは、働く人やその家族の悲痛な訴えを受け止め、全国に拡大。16日には、31回目の一斉電話相談が31都道府県で実施される予定だ。
初の110番は1988年4月23日。大阪の弁護士や医師らでつくる大阪過労死問題連絡会が開設した。まだ過労死という言葉が浸透していない時代で、中心メンバーの松丸正弁護士は「どれほど広がりのある問題か、最初は半信半疑だった」。だが、開始直後から電話は鳴りっぱなしに。反響の大きさから、早くも2カ月後には大阪や東京、福岡など数カ所で再び実施された。昨年6月の一斉相談は32都道府県で行われ、常設窓口を設ける所もある。
バブル景気でばりばり働く「企業戦士」がもてはやされた80年代末は、40~50代の働き盛りの夫を失った妻からの相談が多かった。90年代にバブルが崩壊すると、リストラのしわ寄せで負担が増えた20~30代や、社会進出が進んだ女性からの電話が増加。2000年代は非正規労働者からの訴え、最近はパワハラや過労による「心」の問題への相談が目立つという。
1991年に広告大手・電通の若手社員が自殺し、遺族が起こした訴訟では、東京で110番に取り組む弁護士が代理人を務め、過労自殺に対する企業の責任を認める初の最高裁の判断を引き出した。厚生労働省は2001年、長期間の疲労の蓄積を考慮するように労災認定基準を緩和。14年にできた過労死防止法がその対策を「国の責務」と明記するなど、是正の動きは徐々に広がる。
しかし、大阪の110番メンバーの岩城穣(ゆたか)弁護士は「非正規雇用やサービス残業、名ばかり管理職など、働き方の規制緩和で、現場は30年前よりもひどいのでは」と指摘。松丸弁護士は「今も多くの職場で過労死ラインを超える残業が横行している。過労死をなくすのはもちろんだが、文化的な生活を送れる労働環境が当たり前になるように活動を続けたい」。
大阪過労死問題連絡会は平日午前9時半~午後5時半にも無料相談電話(06・6364・7272)を開設している。各地の110番の電話番号などは「過労死110番全国ネットワーク」のホームページ(
https://karoshi.jp/
)で確認できる。
■最初の相談者…