漫画「ドカベン」シリーズの主人公・山田太郎=(C)水島新司(秋田書店)
1972年の連載開始から46年。人気の野球漫画「ドカベン」シリーズが、28日発売号で完結する。強打の捕手で主人公の山田太郎、悪球打ちの岩鬼正美、下手投げの里中智、秘打を繰り出す殿馬一人……。個性的なキャラクターによる人間ドラマにとどまらず、細かい配球や作戦、複雑なルールを生かした攻撃などの高度な野球は年代を超えて読者を魅了。現実の野球界にも影響を与えた。
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「まさか甲子園でこのプレーが決まるとは。得点した瞬間に、『あ、ドカベンに出てきたプレーだ』と思った」
そう語るのは、2012年の第94回全国高校野球選手権大会に出場した済々黌(熊本)の当時の監督・池田満頼さんだ。鳴門(徳島)との2回戦で、1死一、三塁から三塁走者がライナーでの併殺成立前に本塁を踏み、相手のアピールがないため1点を追加したシーンだ。珍しいプレーに、しばらく騒然となった甲子園。だが、済々黌は狙い通りのプレーだった。
池田さんは小学生のころ、祖父から「ドカベン」を買ってもらい、夢中になった。何度も読み返し、この形で得点する場面があったことも鮮明に覚えていたという。スイングと同時に三塁走者を走らせ、打球がライナーでもそのまま突っ込むように教え、甲子園で成功する数年前から練習に取り入れていた。
自宅にはドカベン全巻がそろう池田さん。「自分の中では野球漫画と言えばドカベンで、いまは息子が読んでいる。終わるのは残念ですね」
漫画の中では、数々の斬新な打ち方も登場する。「影響を受けた」というわけではなさそうだが、プロ野球界でもドカベンの世界と似たような打法が生まれた。
1997年の日本シリーズ、西武―ヤクルトの第2戦。六回1死満塁からヤクルトのホージーは内角球をバットのグリップエンドに当てた。捕手の目の前に転がった打球は野選を誘って、同点に。ドカベンでは、殿馬一人が得意とする技の一つだ。
葉っぱをくわえながらプレーする岩鬼正美は、悪球打ちの名人。プロ野球でも、90年のクロマティ(巨人)や99年の新庄(阪神)が明らかなボール球の敬遠球をサヨナラ安打したことがあった。
ほかにも、高い飛球を打って落球を誘い、ランニングホームランを狙う「通天閣打法」や、捕手の頭上を越える大ジャンプ「八艘(はっそう)飛び」での本塁生還……。約半世紀にわたって親しまれたドカベンには、現実の世界でも一度は試してみたくなるようなプレーが詰まっていた。(山口裕起)