渡辺元美さん=2018年6月18日、東京都目黒区、鈴木孝英撮影
この夏、100回を迎える全国高校野球選手権記念大会。神奈川大会にまつわる新刊が、相次いで出版された。全国でも屈指の人気を誇る神奈川の高校野球を楽しむのに、最適な2冊だ。(鈴木孝英)
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横浜・渡辺元智前監督の次女で、長らく野球部の寮母を務めた元美さん(47)は、「横浜高校野球部食堂物語 甲子園、連れていきます!」(徳間書店)を出した。今春、寮母を引退した節目に、球児たちの思い出をつづった。
元美さんは約20年前、母紀子(みちこ)さんから寮母を引き継ぎ、球児たちの食を支えてきた。元美さんは管理栄養士の資格を取得し、月曜昼夜ご飯以外、練習中の補食のおにぎりも含めて約20人分の料理を用意した。
球児たちには、一般成人の3倍近い、1日あたり6千~7千キロカロリー分の食事が提供される。だが、食べることがただのつらいトレーニングになってしまってはいけないと元美さんは考える。
だから、ロコモコやステーキ丼などのカフェご飯を採り入れた。おにぎりもスパムを入れたり、オムライス風にしたりして、食べやすさや見た目にも工夫を凝らすようにした。「練習に明け暮れる毎日で、ご飯が楽しみの一つになるようにと思いました」。本にはその一部が、写真付きで掲載されている。
「甲子園、連れていきます!」。ある朝、食堂に行くと、ホワイトボードにメッセージが書かれていた。「支える人への感謝や優しさから生まれた一言。この言葉を本のタイトルにしました」と話す。
寮母は退いたが、「これからも食を通じてスポーツと関わっていきたいと思います」
名将をたどって
約20年にわたって神奈川の高校野球を取材しているスポーツライターの大利(おおとし)実さん(41)は、神奈川の名将14人のインタビューをまとめた「激戦 神奈川高校野球 新時代を戦う監督たち」(インプレス)を出版した。
甲子園通算51勝、春夏5度優勝の横浜・渡辺元智監督や、慶応・上田誠監督などの名将が2015年に引退し、「新時代」となった激戦神奈川。「牽引(けんいん)する屈指の14人の監督に迫ることで、高校野球の魅力を伝えたい」と話す。
大利さんが「勢い、実績ともに神奈川をリードしている」と語るのが、東海大相模・門馬敬治監督だ。門馬監督の勝利への飽くなき探求心は、向上・平田隆康監督や平塚学園・八木崇文監督など、本書で取り上げた多くの監督にも刺激を与えているという。
名門を引き継いだ新監督にも注目している。横浜・平田徹と慶応・森林貴彦の両監督は選手の考えを尊重する野球を目指す。大利さんは「2人は、甲子園出場という結果が出ている点が非常に興味深い」。
大利さんは、監督がここ数年、選手と積極的にコミュニケーションを取ろうとしているのを感じている。「野球を通じ、社会に通用する力を養う」という意識が高まってきていることが背景にあるとみている。
長年の取材の蓄積に加え、監督たちから信頼を得た大利さんだからこそ聞き出せたこまやかなエピソードが盛り込まれた本に仕上がった。