第94回大会初戦の福井工大福井戦で、味方の本塁打に盛り上がる秋田商の応援スタンド=2012年8月15日、阪神甲子園球場
高校野球の応援曲「タイガーラグ」。秋田高の吹奏楽部出身で、指揮者として活躍する佐藤正人さん(58)は、この曲を聴くと、約40年前の苦い思い出がよみがえる。母校が秋田商に敗れた試合を応援スタンドで見ていた。
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「チャンスの場面でめちゃくちゃ速く吹いていたのを覚えてますよ」
ジャズの名曲をアレンジした応援曲。スタンドが一体になるノリの良いメロディーは、対戦相手に強い印象を与える。甲子園や中学野球でも定番になりつつあるこの曲の起源は、秋田商にあった。
一度はお蔵入り、秋田商で再挑戦
話は半世紀ほど前にさかのぼる。野球応援での吹奏楽は、戦後しばらくは「添え物」のような存在だった。しかも米国の軍隊的な行進曲ばかり。それが1960年代に入ると、リズミカルで楽しげな応援曲を甲子園で披露する学校が出てきた。だが、そうした楽譜は秋田まではやって来なかった。
当時、横手高吹奏楽部の顧問をしていた故・進藤史生さんは、仕事で東京に行く度に神田の古書店街や輸入楽譜店を訪ねて、楽譜を探した。そして見つけたのが、マーチング用に編曲された「タイガーラグ」の楽譜だった。
早速演奏してみると、軽快なテンポが野球部の応援に合った。だが、横手にはすでに「マンボジャンボ」という定番曲があり、お蔵入りになった。
進藤さんは70年に異動した秋田商で再挑戦した。試合で演奏すると、「あの曲が流れると点が取れる」と野球部の評判は上々。応援曲として定着した。
野球部員に「うちもタイガーラグを」と懇願され…
90年代後半、「タイガーラグ」は全県に広まる。県吹奏楽連盟副理事長の野上浩さん(54)によると、それまでは各校に定番曲があり、「他校の曲は演奏しない」という暗黙のルールがあったという。だが、秋田工吹奏楽部を指導していた野上さんも、野球部員に「うちもタイガーラグを」と懇願され、秋田商の演奏を聴いて楽譜に起こした。それだけ魅力的な曲だった。ノリの良さを追求し、速いテンポで演奏されることが多い。
一方、秋田商吹奏楽部は、進藤さんが発掘した楽譜を今も引き継ぎ、他校よりもやや遅いテンポで演奏している。応援以外にも学校行事などでもたびたび演奏され、同校のテーマ曲として親しまれている。(野城千穂)