会見で謝罪する日大アメフト部の内田正人・前監督(右)ら=2018年5月23日午後、東京都千代田区
波聞風問
「アメフト部の悪質タックル問題、君はどう思う?」。採用面接で聞かれる日本大の4年生たちに、ある学部の就職指導の担当者はこうアドバイスしているという。「『第三者委員会の報告書をみてください』と答えて」
就活生を気づかったわけではあるまいが、日大の第三者委は6月29日、中間報告書を発表した。日大の選手が関西学院大の選手に危険なタックルをしたのは、前監督と前コーチの2人による指示だったとようやく認定した。
遅きに失した感もある。約1カ月前、日大アメフト部が所属する関東学生連盟は調査報告書を出している。「相手を潰すんで、試合に出してください」と申し出た日大の選手に対し、前監督は「やらなきゃ意味ないよ」と答えた。この言葉を「立派な指示」と断じ、関東学生連盟は前監督らを除名処分にした。
上の指示が認められるのは珍しい。不祥事の幕引きを図る報告書の多くは、知りたい肝心の部分はあいまいにしてすませるからだ。
たとえば、公文書改ざん問題をめぐる財務省の調査報告書は、森友学園との応接録の廃棄についての「指示」をこう記している。
当時の理財局長は、国会で「交渉記録はない」「行政文書の管理ルール通り対応している」と答弁した。その後で部下の総務課長に「文書管理の徹底を念押し」した。ルールは保存期間を1年未満と定めていたため、総務課長は「適切に廃棄するよう指示されたものと受け止めた」。
「廃棄しろ」とはっきり言ったわけではない。ただ、「空気を読め」とばかり、個人に同調を求める圧力が組織ぐるみの暴走につながっていった。「悪質タックル」はひとごとではない。
3年前、東芝の不正会計問題に対する第三者委の報告書は、経営トップが「チャレンジ」という表現で、決算数字の改善を求めたと指摘した。「東芝には上司の意向にさからえない企業風土が存在していた」。その「意向」に従った幹部や社員たちが、目標達成のために不正な会計処理をひたすら続けていた。
関東学生連盟の監事で、日大アメフト部問題の報告書をまとめた1人、寺田昌弘弁護士は「みんな一丸となり、同じ方向をめざす上意下達の軍隊的なメンタリティーは、戦後の復興や高度経済成長には効果的だった」という。
「成功したワンマン経営者の会社には、そのメンタリティーが風土として根づいていることが少なくない。だが平成も終わる現代では、もはや通用しない」。よしあしの見境なく、場の雰囲気を忖度(そんたく)させる風土が変わらないと、組織は再び暴走する。
日大の第三者委は大学のガバナンスの問題も調べる。部活の問題にとどまらず、ワンマンのトップを生んだ巨大組織の病理にまで、7月中にまとまる最終報告書は斬りこめるのだろうか。(編集委員・堀篭俊材)