練習するGK東口=6月25日、ロシア・カザン、内田光撮影
サッカーには、一つしかないポジションがある。そのポジションを奪うのは、難しい。それでもふてくされることなく、自分の立場を考えて動いている。サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会の決勝トーナメント(T)に進出した日本代表(世界ランキング61位)のGK東口順昭(まさあき、32)。エリート街道とは異なる道を歩んできた男は、ロシアの地でしっかりと、その役割を果たしている。
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2日(日本時間3日)の決勝T1回戦のベルギー戦(同3位)に向けて、ロシアでのキャンプ地・カザンで行われた6月30日のトレーニング。公開された冒頭の練習のランニングで、東口は選手たちの集団の真ん中で黙々と走っていた。
今大会で日の目を見られるか分からない。正GKには、W杯3大会連続出場となる川島永嗣(35)がそびえ立つ。自身は12日のW杯前最後の親善試合のパラグアイ戦で先発したが、前半に1失点し、ハーフタイムで交代。チャンスを生かせなかった。
ただ、W杯期間中では、3人のGK陣のなかで、貴重な働きを見せている。1次リーグ第2戦のセネガル戦で、川島がシュートをうまくパンチングできずに、目の前に駆け込んできたFWマネに押しこまれて先制点を与えた。難しい判断を迫られるプレーだが、ミスだとして川島は批判を浴びた。試合後には東口は川島と話し、GKコーチも交えてGK陣で話し合いももった。ミスをした先輩に対して気遣うことを忘れず、プレーの検証をしながら支えている。
今大会の3人のGKでは、年齢で川島と中村航輔(23)の間という立場。初のW杯メンバーながら、W杯初戦前からその葛藤は抱いていた。「航輔はぐいぐいきているし、永嗣さんも第一線でしっかり結果を残している。試合に出たい気持ちも強いが、32歳。難しさも感じている」と話した。年齢的には次回以降のW杯に出場できるかは不透明。だからこそ試合に出たいが、それをアピールしすぎれば、GKチームのなかでの雰囲気が壊れてしまうのではないか。言葉の端々からそんな配慮がうかがわれる。
だが、ガ大阪のジュニアユース出身ながら、その後は福井工大や新潟経営大を経て、プロへの道を切り開いてきた男はぶれない。
「一つしかないポジションを奪うために、練習からしっかりやります。けど、試合に出えへんかったら、違う役割はある。出れへんかったら、『ああ終わりや』とか、そんなところを出してたら、個人としてもチームとしても成長していかないと思う。とにかくワールドカップで日本代表として戦っているんで、自分自身は気をつけたい。そういうころはやって当たり前と思う」と話す。そしてこうも語る。「出た人を全力でサポートするというところは、特にこういう代表では必要なんじゃないかなとは思っています」。東口はポジションや年齢に関係なく、選手に声をかけてコミュニケーションを図っている。
そうはいっても、気持ちに折り合いをつけるのは難しい。それでも、「自分のやることを練習から100%だしきることしか、自分自身が納得いかないと思う。まず、それをした上で、結果はどうであれ、自分は納得出来るんじゃないかと思って毎日しっかり全力でやっています」。報道陣が取材するミックスゾーンに汗だくで現れる姿が、その言葉を証明している。
思い描いていたW杯とは違うかもしれない。でも、その言い訳せず流している汗が、日本史上初の8強まであと一歩に迫るチームに目に見えない貢献をしている。(堤之剛)