メキシコ市で1日、アンドレスマヌエル・ロペスオブラドール氏の大統領選勝利を祝う支持者ら=AFP時事
止まらない治安の悪化、はびこる汚職、変わらない貧富の格差。メキシコは長年にわたり、こうした問題に直面してきた。大統領選を制した左派のロペスオブラドール元メキシコ市長(64)は、問題を解決できない既存政党への不信感を募らせ、変化を求める国民の受け皿となった。
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メキシコ市の南約50キロ、モレロス州にある集落トラルネパントラに続く道で、住民による自警団が検問所を作っていた。男性ばかり30人ほどが銃を持ち、集落に入る車を険しい顔でチェックしていた。
数日前の夜、麻薬組織のメンバー5人が集落に現れ、銃で脅しながら住民から「みかじめ料」を集めるという事件が起きた。集落に住む農家のエルメネヒルド・アルボラダさん(53)は「犯罪増加に政府の対策が追いついていない。殺されないためには、住民自身が守るしか仕方がないんだ」とため息をついた。
警察も事件に関与、容疑者すぐ釈放
国内で昨年の殺人件数は2万5339件。過去最悪を記録した。警察自身が事件に関与している場合があり、捜査されなかったり、容疑者が逮捕されてもすぐに釈放されたりすることも問題化している。
政治と犯罪組織の関わりも根が深い。大統領選と同時に実施した州知事選や議員選などでは、昨年9月から投票日までに候補者48人を含む政界関係者145人が殺害された。犯罪組織の勢力争いに巻き込まれた人もいる。
農民団体「農民人民組織センター」のホセ・ハコボ代表は「企業の土地買収のため、政治家と犯罪組織が結託して農家を脅迫することも起きている」と話す。
メキシコは、この10年間、全体としては経済成長を続けてきた。だが、人口の4割以上が貧困層という変わらぬ現実もある。
汚職も深刻、「政治浄化」に支持
貧困から抜け出すには、政治家や富裕層とのつながりが求められるという。何のつてもない若者は、簡単に稼げる麻薬密売に手を染める。犯罪組織は勢力争いで治安を悪化させる。そして政治家が犯罪組織を利用する。こんな構造ができあがっている。
政治家の汚職も深刻で、現職のペニャニエト大統領の「制度的革命党」を中心に、既存政党の州知事経験者ら14人が公金横領などの罪で訴追された。大統領自身も妻が所有する豪邸を巡り、汚職疑惑が発覚した。
そこでロペスオブラドール氏は、「(既存政党による)腐敗した政治の浄化」を訴えた。汚職をなくせば財源はあるとして、農業保護や開発の遅れた南部のインフラ整備などを公約に掲げた。こうした主張が有権者に受け入れられた。
メキシコ市近郊のテスココに住む農業指導員バレンティン・エルナンデスさん(50)は「これまでの政治が続けば何も良くならない。とにかく現状を変えたい。多くの国民が求めているのはそれだけだ」と語った。(メキシコ市=岡田玄)