過労死を防ぐための国の施策の土台となる「過労死防止大綱」が24日、3年ぶりに改定された。働き過ぎが多いとして特別に調査する対象業種は、メディアと建設が加わって7業種に増えた。課題を把握し、実効性のある施策を早急に進められるかどうかが、新たな大綱を閣議決定した政府にも対象業界にも問われる。
大綱が、過労死や長時間労働が多い業種を名指しして特別な調査の対象にするのは、働き方の実態をつかんで効果的な対策に生かすためだ。2017年版の「過労死等防止対策白書」では、これまで対象となっていた5業種のうち、自動車運転・外食の2業種の企業や働き手にアンケートを実施。人手不足で残業が増え、心身に負担がかかっている実態を明らかにした。
自動車運転は、12月に深夜勤務や休日出勤が集中。トラック運転手の労働時間が長くなるのは、荷主の都合で待ち時間が発生するためという理由が最も多かった。外食店では、最も多い月に従業員が4・1回、店長が3・9回も休日出勤している実態が判明した。
一方、企業に働き過ぎを防ぐ上での課題を尋ねると、「人手不足で対策が取れない」「売り上げや収益が悪化する恐れがある」といった回答が上位を占めた。
厚生労働省は、今秋公表する18年版の白書で残り3業種(IT、医療、教職員)の調査結果も公表し、具体的な対策につなげていきたい考えだ。ただ、これらの5業種の調査に3年かかっている間にも、過労死する人は後を絶たない。
17年度に過労死や過労自殺(未遂を含む)で労災認定された人は計190人。大綱ができた15年以降も横ばいで、高止まりが続く。業種別では17年度に最も多かったのは自動車運転が含まれる「運輸・郵便」の48人で、前年度より7人増えた。厚労省は、5業種ともさらに継続調査していく予定だが、実態を把握しながら有効な対策を進めていくバランスも必要になる。
メディア、建設……追加業界、どう対応
メディアと建設が加わったのは、広告大手の電通やNHK、新国立競技場の建設現場などでの過労死や過労自殺が社会問題になったことが背景にある。
実際、働く時間も長い。厚労省の調査では、月末1週間に法定労働時間の1・5倍となる60時間以上働く人の割合は、全業種平均は7・7%なのに対し広告は13・3%、放送は12・5%、建設は10・7%などと高い。
いずれも長時間労働の常態化が指摘されてきただけに、業界全体で是正を目指す動きも出始めている。
日本広告業協会は今年3月、広告主や制作会社の団体とともに、長時間労働を減らすためのガイドラインを策定。仕事の受発注の際は、土日や深夜の勤務を避けるように文書で確認し合うことなどを盛り込んだ。協会の担当者は「今回、対象となったことは広告業界としても重く受け止めており、当協会でも真摯(しんし)に対応したい」とコメントした。
テレビ局など207社でつくる日本民間放送連盟は「放送を含むメディアが調査対象に加えられたことは重く受け止めている」(竹内淳・事務局次長)。ただ、番組制作は出演者など外部の都合に左右される面が多いといい、各企業の自主的な取り組みに任せるしかない状態という。
日本新聞協会の担当者も「今後とも、働き方改革の取り組みは各社で実情に応じて進めていくと認識している」とした。
大手ゼネコン約140社でつくる日本建設業連合会(日建連)は昨年9月、残業時間に上限を設ける自主規制を発表。12月には週休2日制を実現するための「行動計画」も策定した。日建連の担当者は「週休2日が確保できない現状は変えねばならない。(働き過ぎの是正は)真剣に取り組まなければならない課題と認識している」と話す。(田中美保、渡辺淳基)
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朝日新聞社取締役(働き方改革担当)・中村博信の談話
報道の現場では、勤務や休日が不規則になりがちです。しかし、新聞社の「特性」を言い訳にせず、読者のみなさまにより早く正確で役に立つ情報をお伝えすることと、従業員の健康を守ることを高いレベルで両立させることが報道機関の経営の責務と考えています。今年度、社長を委員長とし、全役員をメンバーとする「働き方改革実行委員会」を発足させました。そこで連続勤務日数の制限をはじめ休日取得、時短、多様な働き方促進のための新たな施策を検討し、順次実施していく予定です。