毎週末に各地の野球場をめぐっては、アマチュアの試合をスコアに記録し、選手たちにエールを送り続けている男性がいる。今年で35年、記録した試合は7千以上。夏の高校野球の球児たちにも「全力プレー」を期待している。
甲子園の全試合をライブ中継 バーチャル高校野球
夏の甲子園、歴代最高の試合は? 投票ベストゲーム
東京都在住の公務員、前田実さん(48)は筋金入りの野球ファン。小学生のとき、巨人ファンで夜にラジオ中継を聞きながらスコアを付けていた父親に、代わりにスコア付けを頼まれたのが始まりという。
その影響を受け、球場で観戦し始めたのは中学2年だった1983年。自宅近くの駒沢球場であった夏の高校野球の東東京大会、修徳―開成の試合が7千超のスコアの第1ページだ。試合の流れ全てを書き込み、完成させた時の達成感がやみつきになった。「今見ると粗いですが、完成させて悦に入っていました」と振り返る。一方、自身はそろばんにも夢中で中学では全国大会に出たこともある。
今でも週末になると、全国各地の球場に出向く。訪ねた球場は沖縄を除く46都道府県で300以上。今年だけでも200試合以上を観戦した。給料は交通費と宿泊費で大半が消えるという。7月30日時点のスコア記録数は計7272試合にのぼる。
ほとんどがアマチュア野球で、うち最も多いのが高校野球で3237試合。次いで大学2097、社会人1146、中学760、プロ32試合。中学野球は、埋もれた才能を見つけるのが楽しみ。大学野球は互いに研究された中での駆け引きが魅力だ。負けたら終わりの高校野球は、全力でぶつかる選手たちのプレーに心揺さぶられる。
「印象に残っていた無名選手の名前が、その後に社会人の大会パンフレットに載っているのを見ると、わくわくしてまた見に行きたくなる」。選手の成長ぶりを見られるのもうれしい。球場に向かう足が重くなる時もあるが、きらめく選手の発見が観戦を飽きさせないという。
練習試合も見に行く。選手名がわからない時はベンチに聞きに行ったり、マネジャーや観戦中の地元ファンに教えてもらったり。「選手名を書けずスコアを埋められないと、達成感がなく、もやもやしてしまうんです」
観戦先の球場では同じ野球ファンとの交流もある。
静岡県のある球場では、墨と筆でスコアをつける高齢男性がいた。机のある席ですずりを置いていたという。前田さんは「自分もいつまでも野球を見られれば」と目標を持つ。
スコアは3色のペンでつけ、ストップウォッチを片手に走塁のタイムや捕手の二塁送球にかかるタイムも記録。観戦後は、野球ファンの仲間に選手の活躍ぶりや寸評を書いてメールで送っている。「選手の能力は科学的トレーニングが増えたせいか、かつてより上がっている」という。
最近は関東の高校野球の地方大会に足しげく通った。8月5日には第100回全国高校野球選手権記念大会が開幕する。観戦経験豊富な前田さんは「とにかく全力疾走。気迫のあるチームほど、幸運を呼び込んで花開く。全力プレーを期待しています」と話す。(五十嵐聖士郎)