日本銀行は31日の金融政策決定会合で、金融緩和による「副作用」に配慮した政策修正を行うと決めた。長期金利操作の手法を見直して一定の金利上昇を容認することや、上場投資信託(ETF)の購入額を減額する可能性があるとした。超低金利による金融機関の収益悪化や年金保険の運用難などの悪影響に対応する。物価上昇率は目標の「2%」にほど遠く、緩和の長期化が必至となったため政策を見直す。
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日銀は会合後の声明文で、長期金利の誘導目標は従来通り「ゼロ%程度」とする方針を維持したうえで、「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」の方策として、「金利が変動しうる」ことや、現在は年間80兆円をめどとしている国債購入額について「弾力的な買い入れを実施する」ことなどを明記。ETFについても、「買い入れ額は上下に変動しうる」とした。
一方で、緩和を弱めると受け止められることを避けるため、現在の超低金利の水準を「当分の間維持することを想定する」とも明記した。「フォワードガイダンス」と呼ばれる手法で、来年10月に予定される消費増税の影響にも配慮した。
日銀は今後、長期金利操作を柔軟化する。日銀は国債を市場で大量に買い、長期金利の指標となる国債利回りを「ゼロ%程度」に抑えている。これまでは0・1%程度までの金利上昇を許容してきた。今後は上昇の許容範囲を広げ、0・1%をある程度上回っても無理に金利を抑えないとみられる。
民間金融機関が日銀に預けるお金の一部に、年0・1%の手数料をかけるマイナス金利政策は維持する。
金利水準を上向かせるのは、2016年9月、マイナス金利による過度な金利低下を防ぐため長期金利操作を導入して以来となる。
株価指数などに連動する上場投資信託(ETF)の買い入れでは、年約6兆円の購入額は原則として変えないが、東証株価指数(TOPIX)に連動する投信の買い入れ比率を現在より増やす一方、日経平均株価に連動する投信は減らす。
日経平均連動の投信は構成銘柄が比較的少なく、個別銘柄の値動きへの影響が大きく、日銀が実質的な大株主になる弊害も大きいためだ。
政策修正は、物価が想定通りに伸びないことが背景にある。会合でまとめた「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、18年度の物価上昇率の見通しを、従来の前年度比1・3%から1・1%、19年度は1・8%から1・5%、20年度は1・8%から1・6%にそれぞれ下方修正した。目標の「2%」はほど遠い。
会合では物価が伸び悩む理由を集中的に討議し、展望リポートでは、競争環境が厳しさを増していることなどによる価格押し下げ圧力が働いていることなどを強調した。そのうえで、今後も粘り強く金融緩和を続ける必要があるとした。
開始から5年以上がたった大規模緩和が、さらに長期化するのは避けられず、日銀はより副作用に配慮した政策運営が求められると判断し、政策を修正することにしたとみられる。
金利操作の見直しは、政策委員9人(総裁、副総裁2人、審議委員6人)のうち、賛成7、反対2の賛成多数で決めた。
黒田東彦(はるひこ)総裁が31日午後に記者会見して、決定内容などについて説明する。(湯地正裕)
「黒田日銀」の金融政策の推移
2013年3月 黒田東彦(はるひこ)総裁が就任
4月 大規模な金融緩和を開始
14年10月 追加緩和
16年1月 マイナス金利政策導入を決定
16年9月 長期金利操作を導入。金融政策の軸足を国債を買う「量」から「金利」へ移す
18年4月 黒田総裁が再任。物価上昇率2%の達成時期を経済・物価見通しから削除