(11日、高校野球 龍谷大平安3―2鳥取城北)
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この日の第1試合、九回裏2死三塁。龍谷大平安(京都)が春夏通算100勝をサヨナラで決める打球が左翼線で弾んだ。鳥取城北の投手、難波海斗君(3年)はマウンド付近で立ち尽くした。「最後の力を出し切って投げたんですけど」。涙があふれた。
急成長して臨んだ舞台だった。入学当初からけがをしがちで、満足に練習できない日々が続いた。投手コーチの大林仁(じん)さん(34)は球の回転数など才能を高く評価していたが、それだけでエースナンバーを背負っては厳しい走り込みに耐えてきた他の投手が納得しない。今年1月、示しをつけるため、ある課題が与えられた。
鳥取城北の投手陣は代々、練習場に花を植えている。人がしたがらない手の汚れる作業を投手がすれば、敗れたときでも部員がついてくる、という考えからだ。大林コーチは、難波君ともう一人の投手に新しくできたばかりの花壇に種をまくことを命じた。「マリーゴールドの芽が出たらメンバーに入れてやる」
難波君はネットで育て方を調べ、花の咲く条件や成長を練習日誌で報告。毎日練習場に着くと、水まきと草むしりをした。「面倒なことをしたがらなかったのに、ここまでやれるのかと驚きました」と大林コーチ。3月半ばに練習に復帰させると、4月初旬、無事に芽を出した。
この夏、マリーゴールドはオレンジ色鮮やかに咲いた。「植物の成長を見守るうち、試合中の野手の細かな動きにも目を配れるようになった」と難波君。
この日、京都大会で1試合平均11点超を取ってきた相手に粘投し、2―2の同点に追いついた後の八回裏には自己最速143キロの直球を投げ込んだ。
「『よくやったやん、泣くな』って言われたんですけど」。難波君は泣きじゃくった。鳥取城北の山木博之監督(43)は「元々、負けん気は強かった。それが優しい、大人の心も身につけて強くなった」と成長をたたえた。(鈴木峻)