第101回全国高校野球選手権鳥取大会(県高校野球連盟、朝日新聞社主催)が7月13日に開幕する。令和最初の甲子園として高校野球の新たな1ページが開かれる。白球がつなぐ歴史をこれからの未来に託していくために、変化し始める高校野球。球児たちを取り巻く新しい風を追いかけた。
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5月下旬、鳥取県米子市の認定こども園ベアーズに自転車に乗った球児たちが1人また1人と集まってきた。今春の選抜大会にも出場した米子東の野球部員たちだ。中国大会1週間前という時期だが、この日の練習はお休みだという。
部員らが大きな段ボールを抱えて園内に入ると、待っていましたと言わんばかりに元気よく園児たちが外に飛び出してきた。「こんにちは。今日は僕たちと一緒に遊んで下さい」。部員の1人が声をかけた。
県高校野球連盟などによると、県内の高校の硬式野球部員は今年度は799人(5月末現在)で10年前の940人(2009年度)から15%減少した。こうした現状を受け同校は、小さい頃から野球に慣れ親しんでもらおうと、17年から保育園児や学童保育の小学生を対象に月1回ほど、野球教室の活動に取り組んでいる。
教室では、恐怖心を感じないよう当たっても痛くないスポンジ製の軟らかいボールとバットを使う。難しいルールにはこだわらず、キャッチボールをしたり、ボールを打ったりして「投げる」「打つ」「走る」といった野球の基礎的動作を体感してもらう。
同園職員の岩田淳也さん(36)によると、部員らによる野球教室は園児たちにも大人気。野球教室がない日でも同じようなボール遊びがしたいという園児が増え、昨冬に教室で使うものと同じボールとバットを購入したという。年長の宇賀澪(れい)君(5)は「高校に入ったらお兄ちゃんたちみたいに野球部に入ってみたい」。
一方で、野球教室では部員たちが得るものも多かったと紙本庸由監督(37)は言う。どういうことか。「惜しい!」「ナイスボール!」。教室での部員は普段の練習や試合で見せる厳しい表情とはまた違う表情を見せる。特に印象的なのは、園児が放つ打球や投球1球1球にとにかく全力で一喜一憂していること。土岐尚史君(2年)は「野球を始めた頃の楽しさを思い出させてくれる。初心に帰って練習にも取り組めます」と話す。
さらに教室では、監督や部長から進行についての口出しは基本的にまったくない。その日どんなことをするか、どうグループを分けるか、園児に水を飲ませるタイミングさえもすべて部員が考える。「ゲームが嫌ならあっちでキャッチボールしよっか」。端の方でなじめずにいる子どもにも目を配って声をかけているのも全て部員だ。
野球解説者である杉本真吾さん(54)は「子どもたちのためにも頑張ろうという使命感や、教室で育まれた自主性が彼らのプレーにも生きている」と選抜大会出場の米子東の強さの要因としても同活動を評価する。
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こうした高校生による野球教室の取り組みは、米子東だけでなく他校でも広がりを見せている。数年前から取り組む倉吉東や倉吉総合産業のほか、岩美も今年度、大岩保育所(岩美町)の園児を対象に初めての野球教室を開催した。県高校野球連盟の田村嘉庸理事長は「プロやトップチームのない鳥取では高校野球が子どもたちにとって一番身近な野球の存在になる。高校野球がこれからこうした活動を担って地域を盛り上げていけたらいい」と期待を込める。(矢田文)