(24日、選抜高校野球 札幌大谷4-1米子東)
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23年ぶり出場の米子東(鳥取)は、ベンチ入りの定員18人に満たないメンバーで甲子園を戦った。札幌大谷(北海道)に敗れたものの、明治神宮大会の優勝校相手に接戦を演じた。
一回の守り。先制を許してなお2死三塁、二塁手の福島康太主将(3年)が右翼前へ落ちそうなフライに飛びつき、グラブに収めた。ピンチを断つ好捕。「YH」の人文字で埋めたアルプス席が大きく沸いた。笑顔で主将をベンチに迎える仲間たち。その白い円陣は少しだけ、小さい。
新チームは昨秋から16人で戦ってきた。今大会は体調不良の選手が出たため、15人で臨んだ。強豪校の多くが数十人で練習し、激しいレギュラー争いをしながら力をつける。少人数では練習の方法も限られ、選手層は薄くなる。
だが、紙本庸由監督(37)は「いくら頭で考えても人数という事象は変わらない。変えられるのは自分たちの意識だ。できないことに執着しても意味はない」と考えた。
選手たちも同じ気持ちだった。一昨年は15人だったから「むしろ多い」と、誰も悲観しなかった。
利点もある。打撃練習の順番はすぐに回る。ボールに触れる回数も増える。紅白戦は人数が足りないため、5、6人ずつが3チームに分かれ、1チームが攻撃で、守備に2チームが入る。工夫すれば困ることは何もない。選手同士の距離が近く、信頼関係も厚くなったという。秋の県大会と中国大会はともに準優勝。福島主将は「少人数は自分たちのストロングポイント」と前向きだ。
さらに、高い意識と、科学的知見を根拠に戦うことでカバーしてきた。
野球部は全国大会に春夏計22回出場し、選抜は第32回大会で準優勝。夏は第1回から途切れず参加する伝統がある。相手を重んじる品位のあるプレーは「米東(べいとう)野球」と称され、多くの高校野球ファンから支持されてきた。甲子園から遠ざかっても米東野球に憧れて進学する球児は多い。「おのずと意欲の高い子が集まる」と紙本監督は言う。
選手たちは、自ら科学的な研究に取り組み、その結果に基づいて行動する。例えばエース森下祐樹君(3年)や4番の福島悠高君(同)は表情とパフォーマンスの関係について研究した。笑い、怒り、悲しみの三つの感情を思い浮かべて10メートル走やスイングスピードなどを測定。笑顔が最高値をもたらすことを導き出した。この研究などが昨年、日本野球科学研究会の大会で特別新人賞を獲得。「喜びは内に秘めるよりも、みんなで分かち合ったほうがいいです」と、チームの主軸は笑顔の効果を薦める。
札幌大谷からリードを奪えない試合展開でも最後まで笑顔は絶やさなかった。「ピンチになればなるほど表情を作れば、ピンチじゃないと思える。気持ちでは負けていなかった」と福島主将は胸を張った。(矢田文)