モスル旧市街で飲料を運ぶ手伝いをする少女。水道は復旧していなかったが、街には人が戻り始め、少しずつ活気が戻っていた=2018年7月4日、イラク北部モスル、杉本康弘撮影 [PR] 戦禍の傷痕は少しも癒えていなかった。 7月、過激派組織「イスラム国」(IS)が最重要拠点としたイラク北部モスルを再訪した。
モスルの地図 1年前はイラク軍などによる解放作戦のさなかだった。ISが最後まで抵抗を続けた旧市街では空爆や砲撃、爆発が続き、多くの建物が押し潰されたかのように全半壊し、無残な姿をさらしていた。
昨年6月、ISによって爆破されたモスル旧市街にあるヌーリ・モスク。敷地内には車両やコンクリート片などが廃棄され、修復作業はされていなかった=2018年7月4日、イラク北部モスル、杉本康弘撮影
倒壊した建物が残されているモスル旧市街で、押し車の荷台に乗って移動する子ども=2018年7月4日、イラク北部モスル、杉本康弘撮影 それから1年。路上に散乱した家財道具や砕け散ったコンクリート片は片付けられていたが、壊れた建物はほとんどがそのまま放置されていた。 ISのモスル支配の象徴だったヌーリ・モスク。1年前に近くで取材した時は銃撃音や砲撃音が鳴り響き、黒煙が上がっていた。今は打って変わって静かだ。モスクの屋根にISを罵倒する落書きがあり、周辺には焼け焦げて使えなくなった車両が折り重なるように捨てられていた。 救いは、住民が戻り始めていることだ。
モスル旧市街の建設作業現場で働く男性ら=2018年7月4日、イラク北部モスル、杉本康弘撮影 建設作業員のイスマイル・サブリさん(43)は6月30日、避難先から旧市街の自宅に戻った。玄関の鉄扉には20発以上の銃撃痕。テレビや冷蔵庫が奪われ、水道は使えない。「でも、家があるだけ幸せだ」 裏通りを歩くと、キュウリやジャガイモを押し車に乗せて売り歩く男性や、飲料を台車で運ぶ子どもたちとすれ違った。崩れ落ちそうな建物で、鍋やほうきを並べて雑貨屋を営む男性もいた。一歩ずつ、暮らしは再開している。
イラク北部モスルの中心部を流れるチグリス川に飛び込んで遊ぶ少年。対岸はISとイラク軍などの戦闘が最後まで続いた旧市街=2018年7月5日、杉本康弘撮影 街の中心部にはメソポタミア文明を育んだチグリス川が流れる。岸辺で男の子らが水遊びに興じていた。カメラを向けると、おどけた顔をして次々と川に飛び込んだ。 ISの侵攻前、モスルは人口約200万人のイラク第2の都市だった。時間はかかっても、かつてのにぎわいを取り戻してほしい。次に訪れるときは、もっと多くの笑顔に会いたい。悠久の大河を前に、そう願った。(文と写真 機動特派員・杉本康弘) |
静寂の中に活気 解放1年、記者が見たイラク・モスル
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