核関連施設かただの倉庫か――。イランの首都テヘラン郊外にある建物が、世界的に注目を集めている。国連総会で先月27日、イスラエルのネタニヤフ首相が「イランの秘密の核関連倉庫」と訴え、国際原子力機関(IAEA)の査察を求めたためだ。記者が現地を訪れると、近所の住民は「鉄製品の倉庫と聞いている」と語った。
9月27日、ニューヨークの国連本部。国連総会の一般討論演説に登壇したネタニヤフ氏が「イランの秘密の核関連倉庫」と主張する建物の写真を掲げ、「8月に15キロの放射性物質が、この倉庫から(テヘランの別の場所に)移動された」と訴えた。
問題の建物は、テヘラン中心部から南に約30キロ離れたトルグザバッド地区にある。10月3日午前、記者が同地を訪れると、ネタニヤフ氏が見せた写真と同じ建物が、未舗装の道路沿いにあった。周囲には資材倉庫やペルシャじゅうたんのクリーニング工場が並び、行き交う人々は少ない。
建物は高さ2メートル以上の壁に囲まれていた。壁には地元レストランの宣伝などの落書きが目立つ。入り口には監視カメラ2台が設置されていたが、警備員の姿はない。入り口の向こうには薄茶色の2階建ての建物が2棟。入り口の扉をノックすると、ここで働いているという男性が「上司に開けてはいけないと言われている」とだけ語った。
近くの倉庫で働く男性(53)に聞くと、「そこは鉄製品の材料を保管する倉庫だ。核関連施設なら、もっと厳重に警備されているはずだ」という。ペルシャじゅうたんのクリーニング工場で働くハミッドさん(30)は「出入りしているのは、政府関係者や科学者には見えない。普通のイラン人だと思う」と語った。
イラン外務省のアラグチ外務次官はネタニヤフ氏の発言後、記者団に対し、「誰かがネタニヤフ氏をだましている」と述べ、写真の建物は核関連の倉庫ではないと反論した。
イランの核開発を巡っては、イランが核開発を大幅に制限する見返りに、欧米が経済制裁を緩和する核合意が2015年に結ばれた。イランは核兵器に転用できる高濃縮ウランやプルトニウムを15年間生産できないが、ネタニヤフ氏はイランは合意を履行していないと繰り返し主張。今年4月にも「イランは核合意後も核兵器のノウハウを蓄積している」と訴えた。(テヘラン=杉崎慎弥)
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〈イラン核合意〉 2002年にイランで核兵器の開発につながるウラン濃縮施設が見つかったことをきっかけに、イランが核兵器を持たないよう、米・英・仏・独・中・ロの6カ国、欧州連合(EU)、イランが15年7月に結んだ国際合意。イランが核兵器の開発につながる高濃縮ウランやプルトニウムの生産を停止したり、遠心分離機を削減したりする代わりに、欧米はイランに対する経済制裁を解除する。米国は5月、合意を離脱し、制裁を段階的に再開。イランは「国際ルール違反だ」と猛反発している。