大リーグの試合で、珍記録の後に大記録が生まれた。ニューヨークで8日(日本時間9日)にあったア・リーグ地区シリーズ第3戦のヤンキースとレッドソックスの一戦。レッドソックスが14―1と大量リードして迎えた九回、ヤンキースの6番手の投手としてロマインがマウンドに上がった。
実はこのロマイン、本来の守備位置は捕手。プレーオフで選手登録が投手以外の選手が投げるのは、2015年のア・リーグ優勝決定シリーズ第4戦でブルージェイズの内野手、ペニントンがロイヤルズ相手に登板して以来、2度目だ。
大リーグのレギュラーシーズンでは、大差がついた試合でリリーフ投手の負担を減らすため、代わりに野手が投げることがたまにある。ちなみに、ロマインの兄、アンドリュー(マリナーズ)は内・外野のどこでも守れる「便利屋」として知られ、実に7度も投げている。
「(リードしている展開で出す)ブリットンやベタンセスらを、あのような場面では使いたくなかった」とヤンキースのブーン監督。ともあれ、ロマインは先頭から2人の打者を凡打に仕留め、続く打者には四球。2死一塁で、レッドソックスの打席に7番のホルトが入った。
ホルトは、八回までに中前安打、右翼線三塁打、中越え二塁打を放っていた。「ホームランが出ればサイクル安打だとは知っていた。野手がマウンドにいるし、仲間には『サイクル安打のためにはホームランが必要だから、俺を盛り上げてくれ』って言ったんだ。何でも振っていこうと思っていた」
初球のスライダーを振り抜くと、打球は右翼席へ届いた。2015年以来、自身2度目、そして大リーグのプレーオフでは史上初となるサイクル安打を達成した。試合後、取材を受けるまで「史上初」とはさすがに知らなかった。
「この夜のことは、ずっと忘れない。レッドソックスにとっても、いい夜になった」とホルト。打った相手が本来は捕手であろうと、記録は記録。試合開始時の熱狂がうそのように静まりかえった宿敵の本拠、ヤンキースタジアムで喜びに浸った。(ニューヨーク=山下弘展)