第43期囲碁名人戦七番勝負(朝日新聞社主催)の第5局で取材班に加わった私。実は囲碁は素人で、取材も初めてだ。盤上の熱戦も、何が起きているのかさっぱりわからない。そんな私に立会人の王銘琬(おうめいえん)九段が、「純碁」という対局ゲームを使って囲碁の楽しさを教えてくれた。
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将棋は相手の王様を追い詰めれば勝ちと、わかりやすい。だが囲碁は、見ただけでは黒と白、どちらが勝っているのかよくわからない。ルールも難しそうだ。
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囲碁は19×19の広大な盤上に黒石と白石を交互に打ち合い、陣地の大きさを争うが、純碁で使うのは9×9の「9路盤」や7×7の「7路盤」で、陣地の概念はなく、「最後に盤上にある石が多い方が勝ち」とする。王九段によると、純碁は囲碁のルールの本質を変えずに同じように楽しめる「囲碁の最もわかりやすいかたち」だという。
囲碁の起源ははっきりとはわかっていないそうだが、元々の勝敗の判定方法はこの純碁の方式だったといい、日本でも戦前までこのルールで打たれていた地域があったそうだ。普及に努める王九段は当初、「基礎囲碁」と呼んでいたが、語呂の良さや元々純粋な囲碁の形はこういうものだったという意味を込めて、20年ほど前に「純碁」という名前にしたという。
今回使ったのは、A4判の薄い下敷き状の7路盤。持ち運びにも便利で、盤上には①黒から交互に打つ②味方の石は線によってつながる③相手の石から出ている線を自分の石ですべて囲めばその石を取れる――などのルールが記されていて、確認しながら実戦に臨むことができる。
ルールの説明が終わると、さっそく対局。王九段は囲碁歴50年以上、本因坊2期、王座1期というタイトル獲得経験があるベテランだ。私が先に石を三つ置けるというハンディキャップをいただいた。
これまで何となく、棋士たちは四方八方にまばらに石を打っているようなイメージを持っていたが、石はつなげた方が取られにくいということがわかった。真ん中に黒石を三つつなげて置いてみる。
ただ、せっかく覚えたそのコツも打っているうちに忘れてしまい、王九段から「ここ、石がつながっていませんよ」と指摘される場面も。気がつくと石を次々と取られていた。
「予想外のタイミングで石を取られると慌てるので、まずは守りから固めた方が良いな」「相手の打った石を内側に追い込むようなイメージで、その外側の隣に打てば良いんだな」と、徐々にコツをつかむ。約7分間の対局の末、なんと29対16の大差で勝ってしまった。
もちろんだいぶ手を抜いてくれたのだろう。王九段は「一生囲碁なんて打てない、と思っていたような人が、こうやって楽しんでくれるのを見るのがうれしい」。私も、勝ったことより囲碁という新たな世界を知るきっかけが得られたことがうれしかった。
実際の囲碁では、私にはわからないタイミングで一方が負けを認めて投了し、勝負が決まることが多い。それがわかるレベルになるまでには、まだまだ時間がかかりそうだ。いつか名人戦の盤上を見て、「今こっちが優位だよ」なんて言えるようになるまで、頑張ってみたい。
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純碁については、「純碁ホームページ」(
http://jungo.go-en.com/
)が詳しい。台湾製のアプリ(
http://www.simplego.net
)で学ぶこともでき、「純碁ホームページ」には日本語でダウンロード方法を説明したページもある。(永田篤史)