「この半年に起きたことが、有権者の怒りを買ったと感じている」。バイエルン州のゼーダー州首相は14日、自身も所属するキリスト教社会同盟(CSU)が1950年以来、68年ぶりの低い得票率となった選挙結果を受けてこう語った。
保守の牙城だった南部バイエルン州の州議会選挙で、メルケル首相率いるキリスト教民主同盟(CDU)と連立を組むCSUが歴史的敗北を喫した。この半年、連立政権内でCDUとCSUの対立が頻発したことが背景にあり、メルケル政権の足元はおぼつかなくなっている。
何が支持者の離反を招いたのか。
昨年9月の総選挙で新興右翼政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の台頭に脅威を感じたCSU党首のゼーホーファー内相は、右翼寄りの政策や言動を繰り返した。6月には、国境で難民を追い返す強硬策を打ち出してメルケル首相と対立。あわや連立崩壊の危機にまで追い込んだ。9月には、極右寄りと受け止められる発言をした情報機関のトップをゼーホーファー氏がかばい、その人事をめぐって連立与党の執行部が対立。いったん決めた人事が世論の反発を受けて覆る失態も演じた。
こうした有権者不在の「内輪もめ」と、CSUの「右傾化」が支持者離れの大きな要因だ。一方、政策をコピーされた形のAfDは「CSUが口約束したことを、われわれが実行する」と選挙戦で訴え、支持を広げた。
CSUは今後、同州ですでに議席があり、政策が比較的近い地域政党の「自由な有権者」と連立交渉を進める見通しだ。
連立組む与党も惨敗
連立政権内の対立の影響は、州レベルにとどまらず、政権の足元を揺るがし始めている。
9月にあったCDU・CSUの連邦議会での統一会派代表(院内総務)選では、メルケル氏の腹心で、13年間も同ポストを務めたカウダー氏が無名の議員に敗れた。議員らによる政権執行部への「警告」と受け止められた。
11日に発表された公共放送ARDの世論調査では、両党の支持率は26%と過去最低を記録した。「メルケル氏はもやは過去3期のように盤石ではない」(ショイブレ連邦議会議長)との見方が広がりつつある。
12月には2年に1度のCDUの党首選があるが、メルケル氏以外に3人が立候補の意思を表明。メルケル氏の再選は堅いとみられているが、28日に予定されるヘッセン州の州議会選挙の結果次第では、予断を許さない状況になりそうだ。CDUのクランプカレンバウアー幹事長は14日、「2週間後の選挙に全力を注ぐ」と語った。
今回の州議会選挙では、中央政権で連立を組む社会民主党(SPD)の得票率がほぼ半減し、第2党から第5党に転落した。全国の世論調査でも、緑の党、AfDの後塵(こうじん)を拝した。SPDのナーレス党首は会見で「ひどい結果の理由のひとつは、ベルリンでの連立政権のひどいパフォーマンスにある」と語った。今年3月の連立政権の発足時から党内にある連立反対の声が高まる可能性がある。
投票日の前に朝日新聞の取材に応じた緑の党のハーベック党首は「ゼーホーファー氏が混乱の責任をとって党首や内相を辞めない場合、SPD内からの連立離脱を求める声が再び高まるだろう」との見方を示した。(ベルリン=高野弦)
沸き返る欧州右翼
既存の中道政党の退潮は、来年5月の欧州議会選を前に、欧州の他の右翼政党を勢いづかせている。
フランスの右翼「国民連合」(旧国民戦線)のマリーヌ・ルペン党首は15日、「AfDの力強さを見れば、来年5月の欧州議会は(既存勢力の)バランスが大きく崩れることがわかるだろう」とツイート。反移民で立場が似通うAfDの躍進を歓迎した。イタリアの右派「同盟」党首のサルビーニ副首相も14日、「独与党の歴史的敗北で多くのAfDの友人が議会入りする。さよならメルケル!」とツイッターに投稿した。
欧州では9月のスウェーデン総選挙で反移民を掲げる政党が躍進するなど、右翼が既存政党の議席を奪うケースが目立つ。イタリアでは「同盟」の支持率は今月の世論調査でトップの33%に達した。国民連合も9月の仏世論調査で、欧州議会選での投票先として21%の支持率を得ており、マクロン大統領の与党「共和国前進」(21・5%)に匹敵している。ルペン氏とサルビーニ氏は今月8日、ローマで会談し、欧州議会選に向けて共闘することを確認した。反移民や欧州連合(EU)懐疑主義の勢力を結集させる考えだ。(パリ=疋田多揚、ローマ=河原田慎一)