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第43期囲碁名人戦七番勝負は、挑戦者の張栩九段が井山裕太名人を1勝3敗から3連勝の逆転で10期ぶりの名人復位を果たした。「日本の歴史上最強の棋士」とみる井山相手に、盤上のみならず盤外にも及ぶ総力戦をいかに戦ったか。新名人に聞いた。
張栩名人=2018年11月5日午後、東京・市ケ谷の日本棋院、村上耕司撮影
前半戦を五分(ごぶ)でしのぎ、後半勝負にかけるシナリオは、のっけから崩れた。開幕戦を落としたあとの第2局は、名人戦史上2番目の長手数となる336手の激戦となった。
井山は持ち時間の大半を使い果たし、終局までの約4時間を残り1分の秒読みで打ち続けた。井山が1分碁に入ったとき、張はまだ残り時間が2時間以上あった。「追い詰めた」と思った。井山にミスが出た。「勝てる」。だが、そのとき張も秒読みに入っていた。直後にミスのお返しをして、勝負はついた。
終盤の勝負どころに時間を残しておくため、序盤から意識的に早打ちをしてきたのに、肝心のときに時間がなかった。第3局から早打ちを加速させた。
張栩名人=2018年11月5日午後、東京・市ケ谷の日本棋院、村上耕司撮影
連敗したものの、肉薄した2局目で手応えをつかんだ。各棋戦の中で最も考慮時間の長い2日制8時間の碁は5年ぶり。自身の特性とフィットしていると感じた。「相手の時間を使うのが僕の一番の持ち味」と張は言う。相手が考えている間も読みを深める術に長じ、持ち時間が長い8時間なら、考慮時間は実質16時間に等しいというのだ。
加えて、変幻自在な井山の手を予測できるようになっていた。「普通ならこの手を打ちそうだけど、井山さんならこう打つかな」と。それが当たる。「ついていける」と思った。
第3局は早い段階で有利に立ち…