「食」を支える農業の現場で、安全の確保が課題になっている。農作業中に亡くなるのは年間300人以上。就業者10万人あたりの死者数では全産業平均を大きく上回る。安全は農家の「自己責任」に委ねられているのが実情だ。
霧島連山のふもと、宮崎牛の生産地として知られる宮崎県高原(たかはる)町。5月18日午前、蒲牟田(かまむた)地区の農業黒木可也(よしや)さん(84)は近くの田んぼを通りかかり、異変に気付いた。誰も乗っていないトラクターが畦(あぜ)に乗り上げようとしていた。エンジンはかかったままだ。
道路脇にいきなり穴、下に用水路 転落死多い現場を歩く
明日は我が身 運転中に急病の事故、年200件超
ぬれた床、散らかった部屋 解剖記録が物語る自宅の危険
まさか――。見渡すと、同僚の男性(76)が田んぼ内の数十メートル離れた所で倒れていた。頭などを負傷し、搬送先の病院で死亡が確認された。県警によると、トラクター後部の回転部に巻き込まれたという。
男性は、黒木さんらと共に地元農家でつくる農事組合法人の役員を務め、この日は田植えに備えて地面を耕す作業を一人でする予定だった。「トラクターの運転は上手だったから信じられない」と黒木さん。運転席から落ちたのか、降りて作業をしていたのか、状況はわかっていない。
農林水産省によると、農作業中に亡くなる人の数は近年、年間350人前後で推移している。2016年は312人で、約8割が65歳以上だった。農家の人口は減っており、就業者10万人あたりの死者数は右肩上がり。16年は過去10年で最多の16・2人で、建設業(6・0人)や全産業平均(1・4人)を大幅に上回った。
要因別では、農業機械を使用中の事故が69・6%を占めた。トラクターを運転中に横転して下敷きになったり、回転部に体が巻き込まれたりするケースが目立つ。熱中症は6・1%だった。
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