自動車や航空機など、日本を代表する「モノづくり県」の愛知県。だが清酒の出荷量が全国7位でもあることは意外と知られていない。「酒造り県」の知名度アップに向け、県は今年度から首都圏でのアピールに本腰を入れている。
東京都目黒区の中目黒駅前で今月3日、全国の清酒を楽しむイベント「和酒フェス」が開かれた。今回初めて「愛知県ブース」を設け、神杉酒造(安城市)や金虎酒造(名古屋市)など、県内の酒蔵が自慢の酒を振る舞った。試飲した都内の会社員の女性(45)は「愛知は工業地帯のイメージが強くて、出張で行っても地酒を飲むことはなかった。酒造りが盛んだとはまったく知らなかったけれど、とてもおいしい」と笑顔を見せた。
国税庁によると、愛知の2016年度の清酒出荷量は1万6513キロリットル。1位の兵庫(約14万キロリットル)や2位の京都(約9万8千キロリットル)には及ばないが、東海地方では岐阜(5983キロリットル)や三重(5272キロリットル)を大きく上回る。
愛知の酒造りには伝統がある。古事記に愛知の酒の記述があるほか、江戸時代には尾張藩主の徳川光友が奨励し、江戸と大阪の中間に位置する「中国酒」として人気を博した。
県酒造組合によると、愛知は木曽三川や矢作川などの清流の伏流水に加え、良質な原料米や酒造りに適した気候にも恵まれているという。杉本多起哉会長(57)は「愛知の酒は統一的な味ではなく、酒蔵ごとに異なる多彩さが特徴。あえて言えば、みそに代表される濃い味の食べ物をじゃましない味になっている」と話す。
一方で味も含めて統一的なブランドになっていないこともあり、全国的な認知度は低い。同組合も「いい酒はたくさんあるが、あまりにも知名度がない」と嘆く。
そこで、県は2015年度から「あいちの酒需要拡大促進事業」を開始。これまでは県内の観光地などでアピールしてきたが、今年度から首都圏でのPRをスタート。「和酒フェス」に続き、来春は東京・日本橋で大々的に愛知の酒をアピールするイベントを開く。さらに横浜での観光物産展などでも売り込みを図る。
海外での和食ブームを追い風に、清酒の人気は国際的に高まっている。財務省貿易統計によると、昨年の清酒の輸出金額、数量は約187億円(前年比119・9%)、2万3482キロリットル(同119%)と、いずれも8年連続で過去最高を更新した。
県は愛知の酒の知名度が高まれば、外国人観光客に味わってもらう機会が増えると期待する。将来的には海外の販路も広げることが目標だ。(岩尾真宏)
愛知の主な地酒
・醸し人九平次(くへいじ)=萬乗醸造、名古屋市
・勲碧(くんぺき)=勲碧酒造、江南市
・木曽三川=内藤醸造、稲沢市
・國盛(くにざかり)=中埜酒造、半田市
・ねのひ=盛田、常滑市
・長珍(ちょうちん)=長珍酒造、津島市
・義侠(ぎきょう)=山忠本家酒造、愛西市
・蓬莱泉(ほうらいせん)=関谷醸造、設楽町