神奈川県大井町の東名高速で昨年6月、「あおり運転」をされたワゴン車の夫婦2人が死亡した事故で、危険運転致死傷罪などに問われた福岡県中間市の無職石橋和歩被告(26)の裁判が3日、横浜地裁で始まった。公判では、亡くなった静岡市の萩山嘉久さん(当時45)、友香さん(当時39)夫婦の次女らの供述調書が読み上げられ、事故発生時の詳細な状況が明らかになった。
あおり事故、息子夫婦の死「真実を」 母は前を見つめた
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事故直前、一家のワゴン車は東名高速の中井パーキングエリア(PA)に立ち寄った。公判で明かされた供述によると、当時小学6年だった次女はワゴン車の3列目の座席で横になっていた。嘉久さんが石橋被告の駐車の仕方を注意しているのが聞こえた。
PAを出た後、被告の車が、友香さんが運転するワゴン車の前に割り込んできた。車が止まり、「なんでこんなところに止まったんだろう」。そう思っていると被告が車から降りてきた。嘉久さんが、座っていた2列目のスライドドアを開けた。「けんか売っちょんのか」と被告。嘉久さんは謝ったが、被告の怒りは収まらない。上半身を車に入れるようにして、嘉久さんの胸ぐらをつかむ。
そして――。「ドカーン」という音が響いた。
「処罰のことは分からないので、おじいちゃんやお姉ちゃんに任せます」
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公判では、被告の車に同乗していた女性の供述調書も読み上げられた。
その内容によると、女性はPAで被告が嘉久さんから注意を受けた時「和歩がキレる」と思った。これまでも何度も同じようなことがあったからだという。
一家の車を猛追する被告に、女性は「くだらん。何回同じことするの」と説得したが、被告は聞く耳を持たなかったという。
被告の車と一家のワゴン車が止まった高速道路上で、女性は被告の腰を引っ張るなどして説得。「子供がおるけん、やめとき!」。ようやく被告は冷静になり、自分の車へ戻った。
女性はその後の記憶がなく、気がついたら病院だったという。(飯塚直人、山下寛久)
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嘉久さんと高校時代からの親友だった静岡市のトラック運転手、田中克明さん(46)は法廷の一番後ろの席で初公判を見守った。
当初は「法廷で被告を見たら、殴りかかってしまうのではないか」と傍聴をためらっていたが、「自分の目で見届けて、事実を知りたかった」。この日、朝早く静岡市から駆けつけた。公判中の被告の様子について「反省しているようには見えなかった」。
仕事の都合で、傍聴できるのはこの日が最後。「うわべだけの謝罪はいらない。結果がどうなっても、私は友人としてしっかりお墓に報告したい」