おいしくて安い魚が食べられるようになるのか。水産業の斜陽化に歯止めはかかるのか。安倍晋三首相が「70年ぶりの抜本改革」と力を込めた漁業法改正案。参議院での審議が大詰めを迎えている。企業の技術や資本を生かして、漁業を「成長産業」へ転じるのが狙いだが、現場の漁業者からは「海や漁村の荒廃を招きかねない」と懸念の声も上がる。
改正案は6日、参院農林水産委員会で審議された。近く採決される見込みだ。
主な柱は、船ごとに漁獲量を割り当てる資源管理の導入と、養殖・定置網の二つの漁業権の「地元優先」枠をなくすことだ。後者には、漁業への企業参入を促す狙いがある。
沿岸で養殖などを営むのに必要な漁業権の免許はいま、地元漁協などに最優先で与えられている。歴史を踏まえ、「沿岸の海を使い、守るのは地元」という了解があったからだ。
外部の企業が漁協に入らずに養殖を営むには原則、地元漁協などが名乗りをあげないことが条件となっており、権利を得て養殖に乗り出しても、免許更新時に地元漁協が申請すれば権利を失う。
改正案はこれをやめ、「地域の水産業の発展に最も寄与すると認められる者」に新たな漁業権を与える。免許更新の際は、漁場を「適切かつ有効に活用」しているかを基準とする。判断するのは都道府県知事だ。
「古い仕組みが企業に参入をためらわせていた。漁協でも企業でも、きちんと漁場を使う人に権利を与えるための改正だ」と水産庁は説く。
13年現在で、全国の漁業就業者数は18万人。この30年間で6割近くも減った。吉川貴盛農水相は「将来にわたって、持続的に漁場生産力を高める」ことが大切だと国会で答弁してきた。
東京大学の八木信行教授(水産政策)は「現行法ができた戦後と違い、今は漁業者が減っている。改正案は、現実に合わせて、参入への規制をバランスに配慮して緩やかにするものだ。国産水産物の減少に歯止めをかけ、新たな商品開発につながる可能性もある」と話す。
漁業法改正案の主な内容
資源管理の見直し
・漁獲量の上限を決め、船ごとに漁獲枠を割り当てる管理を基本に
・漁船の大きさの規制を緩和
漁業権の見直し
・養殖や定置網漁で地元の漁業者らを優先するルールを撤廃
・「地域の水産業の発展に寄与すると認められる者」に新しい漁業権を付与
その他
・海区漁業調整委員会の公選制を廃止し、知事が任命
・密漁の罰金を最大200万円から3千万円に引き上げ