日産自動車が7日、車の安全性能にかかわる新たな検査不正が見つかったと発表した。役員報酬の過少記載の疑いで逮捕された前会長のゴーン容疑者に代わり、名実ともに経営トップとして日産を率いる西川広人社長兼CEO(最高経営責任者)は記者会見に姿をみせず、説明責任を果たさなかった。深刻な機能不全を露呈したガバナンス(企業統治)の改善が急務だが、その兆しはまだ見えない。
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新たな不正は出荷前のすべての車を対象とする「全数検査」のうち、ブレーキなど6項目について見つかった。昨年9月以降、出荷前の完成車検査で不正が見つかるのは5度目。重ねて再発防止を誓い、「膿(うみ)は出し切った」と宣言した後も不正発覚が続く。
日産の生産現場に品質不正が蔓延(まんえん)する背景には、徹底したコスト削減を求めてきた「ゴーン流経営」の影響がある――。こうした声が、日産の社内からも聞こえてくる。
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今回不正があった追浜工場(神奈川県横須賀市)は、40年前の検査装置が更新されないままだった。本田聖二常務執行役員はこの日の記者会見で「検査員に使い勝手がよくなかった」と述べた。
老朽化した設備を更新せずに国内外の工場同士が生産効率を高める競争をさせられ、現場には重い負担がかかっていた。これが不正を助長する土壌を生んだとみる社員は少なくない。本田氏は「ゴーン(前会長)が来てから、コスト削減が一部強まった傾向はある」「優先すべきコンプライアンス(法令順守)をコストと同じレベルでみる傾向があった」と口にした。
ゴーン前会長は、昨秋以降の一連の検査不正に関して、一度も公の場に姿を見せていない。今年6月の株主総会で株主から責任を問われたときも「執行の責任者は西川社長だ」と主張し、謝罪しなかった。
日産の執行責任を任された西川氏も、ゴーン前会長の逮捕直後は会見したが、今年に入って検査不正に関する会見には姿を見せていない。
この日会見したのは2人の常務執行役員。排ガス・燃費データの不正で会見したのは2人より格上の山内康裕CCO(チーフコンペティティブオフィサー)だった。
検査不正が相次いで発覚したスバルは、その都度社長が会見を開いているが、日産は、会見する幹部の役職が徐々に低くなっている。西川氏が会見に出ない理由について報道陣に問われた本田氏は「答えることはできません」と述べるにとどめた。ある日産幹部は「社長は自身の非を認めない限り、謝ろうとしない性格だ」と嘆き、西川氏の対応に疑問を投げかけた。(木村聡史、高橋克典)
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