高額報酬問題をきっかけに経済産業省と対立を深めていた国内最大の官民ファンド、産業革新投資機構(JIC)は10日、民間出身の取締役9人全員が辞任すると発表した。田中正明社長が10日午後、東京都内で記者会見し、「新産業創出の理念に共感して集まったが、経産省の姿勢の変化で目的を達成することが実務的に困難になった」「経産省による信頼関係の毀損(きそん)行為が9人の辞任の根本的な理由だ」と説明。「お騒がせしたことをおわびする」とも述べた。
11人の取締役のうち経産、財務両省出身の2人を除く9人は残務整理がつき次第、辞任する。経産省との関係修復は困難と判断した。辞任するのは、田中氏のほか、副社長の金子恭規氏、専務の佃秀昭、戸矢博明両氏と、取締役会議長の坂根正弘氏(コマツ相談役)ら社外取締役5人。旧産業革新機構を改組して9月下旬に発足して3カ月弱で、経営陣が事実上総退陣する異例の事態となる。経産、財務両省出身の常務2人はJICにとどまり、事態の収拾や組織の立て直しにあたる方向だ。
経産省は今月3日、JICが導入をめざす経営陣への高額報酬について、世論の理解を得られないとして認めないと発表。官民ファンドと所管官庁が対立する異例の事態となっていた。
経産省は9月にいったんは高額報酬を容認したのに、11月に入って報酬案を白紙撤回。当初案より報酬水準を低くするよう見直しを求めたが、田中氏は「今までの議論がひっくり返された」と猛反発。前代未聞の対立に発展していた。経産省は事務的な不手際があったとして、事務方トップの嶋田隆事務次官を厳重注意処分にし、田中氏にも自主的な退任を促していた。
経産省は高額報酬だけでなく、JICの情報開示の姿勢も問題視。経営難に陥った企業の救済色が強かった旧機構への反省からJICの投資判断への関与を弱める方針だったが、一転してJICの運営に対する国の関与を強める構えをみせた。田中氏らは経産省の「手のひら返し」に不信感を強め、対立は決定的なものになっていた。経産省はJICの「解体的出直し」を図る考えだが、後任人事は難航しそうで、所管官庁としての責任が問われるのは必至だ。
JICの取締役
【辞任する取締役】
★社長 田中正明(三菱UFJFG副社長)
★副社長 金子恭規(米ベンチャーキャピタル代表)
★専務 佃 秀昭(コンサル会社パートナー)
★専務 戸矢博明(投資ファンド東京支店長)
取締役会議長(社外)坂根正弘(コマツ社長)
(社外)冨山和彦(経営共創基盤CEO)
(社外)星岳雄(米大学教授)
(社外)保田彩子(米大学教授)
(社外)和仁亮裕(弁護士)
【残留する取締役】
常務 斎藤通雄(財務省出身)
常務 三浦章豪(経済産業省出身)
(★は代表取締役、かっこ内はこれまでの代表的な経歴)