箱根駅伝で最も過酷な往路5区の山登り。山道を勢いよく駆け上ったランナーは、「山の神」とたたえられる。その名誉ある称号をもたらす小田原~芦ノ湖の高低差約860メートル、計20・8キロのコースは、どれほどに過酷なのか。実際に体験しなければ伝えきれないという思いを募らせた記者2人が、箱根に向かった。
12月中旬、平日の昼前に小田原中継所に立った。
特集:箱根駅伝2019
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まずは小田急電鉄の特急、ロマンスカーはこね号の終着駅でおなじみの箱根湯本駅付近の約1・5キロを軽くジョギング。5区の序盤で、すでにわずかな上りを感じるが、本格的な勾配はまだこの先。商店街のお土産さんをめぐる観光客を横目に走り抜けると、坂道がきつくなっていく。
旭橋を渡り、函嶺洞門バイパスをすぎたところから、上り坂がきつくなる。カーブも連続し、目線が自然と下向きになる。箱根の山々を360度パノラマにして回り込むような、大平台のヘアピンカーブを越えると息は絶え絶えに。箱根登山鉄道のスイッチバックで有名な大平台駅で立ち止まった。まだ標高350メートル余りだが、早くも足に限界がきた。
上りに上って芦ノ湯温泉を抜けたところで、うっそうと茂る木々から周囲がひらけた場所に出てきた。左手に急峻(きゅうしゅん)な山肌を見ながら、わずかな下りを抜け、またしばらく坂を上ると、国道1号の最高地点(標高874メートル)の標識が見えた。小田原中継所からここまで約16キロ。芦ノ湖まではもうすぐだ。
そこからは上り下りの連続、気持ちが休む暇はない。元箱根までたどり着き、ぱっとひらけた目の前に、芦ノ湖と富士山が見えたときは、ようやくたどり着いたという感慨もあって、気持ちもすがすがしい。
真っ赤な箱根神社第一鳥居を抜け、右手に芦ノ湖を望みながら、観光地になっている箱根関所の旧跡を越えれば、ゴールはもう目の前だ。
全長20・8キロ。実際に足で走ったのは、テレビ中継でも印象的なカーブや温泉街など要所の5カ所。計6キロ弱だったが、平地とは違う感覚が身体にあった。
一番は太ももの前の筋肉がすぐに痛くなったこと。太ももやふくらはぎに、平地を走るときとは違う圧力がかかってくるのがわかった。身体を前に進めるというよりも、上に持ち上げるという感覚だ。さらに、レースとなれば他の選手との駆け引きも、重要な要素になるはず。身体のみならずメンタルも厳しいだろうことは容易に想像できた。
今年の5区はどんなドラマが待ち受けるか。「4代目・山の神」は誕生するのか。例年以上に、選手を尊敬のまなざしで見ることにしよう。(佐々木洋輔、平井隆介)