作家で僧侶の瀬戸内寂聴さん(96)は、哲学者の梅原猛さんの訃報(ふほう)を受け、追悼のコメントを出した。全文は以下の通り。
特集:梅原猛さん死去
梅原猛氏は、京都の文化面を一手に引き受ける代表者であられた。御自分では、哲学者と自称されていたが、日本歴史観が日本文学観以上に、深い研究と独自の見識を開発していて、梅原学という魅力的な学問を発明していた。机にしがみついた学者ではなく、常に世界に目を開き、自身の学問の新しい開発に余念がなかった。
天性の芸術的才能にも恵まれていて、学問の傍ら、創作能やスーパー歌舞伎やスーパー狂言を制作し、興行的にも大当たりさせた。
あふれる思想を手で書くのがもどかしく、係りの編集者は、梅原氏のふきあふれる思想の言葉を、かたっぱしから書き取る能力をもとめられた。その一人が私につくづく語った。
「あの人は人間じゃないですよ。喋(しゃべ)りはじめたら朗々としてつかまえる閑(ひま)がなく、その言葉を聞き取り、書くのが大変なんです。ああいう人を天才というのでしょう」
私が三つ年上なので、いつの間にか「姉さん」と呼んでいた。根はロマンチストで、恐妻家で、美しい聡明(そうめい)な夫人がご自慢だった。百まで生きて書くと言い続けていたのに、九十三歳で亡くなったのが惜しい。
京都の貴重な宝が失われたのが惜しい。