国会議事堂を思わせる建物の背後に浮かぶ、ガリガリに痩せた軍服姿の男の上半身。高さ7メートルの展示室をめいっぱい使った作品は、ぎょっとする存在感がある。「自分史上最大サイズの立体作品」という、この会田誠の作品のほか、しりあがり寿の新作インスタレーション、月光仮面やウルトラマンといった時代を象徴するヒーローたちも登場する展覧会「Oh!マツリ☆ゴト 昭和・平成のヒーロー&ピーポー」が、兵庫県立美術館(神戸市)で開かれている。おちゃらけたタイトルだが、中身は硬派で大まじめ。昭和と平成の「ヒーロー」と「ピーポー(人々)」の姿を、美術作品や紙芝居、アニメなどを通じて振り返る内容だ。
「ヒーロー=特別な存在」と「ピーポー=大衆、群衆」という、対照的な二つの存在に着目した今展。タイトルの「Oh!マツリ☆ゴト(おまつりごと)」には、祭事と政事の両方の意味が込められていて、非日常を感じさせる作品から社会状況を色濃く反映した作品まで、幅広い展示が並ぶ。
そして大きな見どころが、会田誠、しりあがり寿、石川竜一、柳瀬安里の4作家が、今展のために作った最新作だ。小林公(ただし)学芸員は「出品予定の作品リストを渡し、展覧会の趣旨を伝えたうえで、それぞれ自由に制作してもらった」という。
会田は、巨大な立体作品「MONUMENT FOR NOTHING Ⅴ~にほんのまつり~」を出展。旧日本陸軍の軍服を着た亡霊が、墓石のようにも国会議事堂のようにも見える立体物に手を伸ばしている。作品は針金や和紙でできており、青森のねぶたの作り方を参考にしたという。
「空から突然現れた亡霊のような感じですが、ガリガリに痩せたこの人物はまだ生きています。去年出た新書で、日本兵の死因のほとんどが、餓死か栄養失調による病死だったというのを読み、そこから着想を得た」と会田。
一方、会場入り口の大階段には、しりあがりの「ヒーローの皮」が展示されている。関西圏のご当地ヒーローたちのコスチュームを、洗濯ひもにぶら下げた。「『ヒーローも家に帰れば洗濯するんだな』と、親しみを持つ人もいるだろうし、抜け殻のような姿を見て『ヒーローの不在』を感じる人もいると思う。入り口ということで、ヒーローについて考えるきっかけになる展示にした」(しりあがり)。ヒーローがイベントに出演する際は、ここから衣装を持って行くため、代わりに「出動中」の札が掲げられる。
しりあがりはこのほか、アニメ作品「地蔵マンZ」も出展している。スマホを手にしたお地蔵様のヒーローが登場し、子どもを責めるネットの投稿を炎上させて攻撃したり、助けを求める子に「君だけ助けると不公平になってしまう」と伝えたり。現代社会への皮肉とユーモアを感じさせる内容だ。
石川は代表作の「okinawan portraits」のほか、自身初の映像作品と10点の写真を組み合わせた「MITSUGU」を発表。柳瀬は、パフォーマンス映像「線を引く」と、新作「土の下」を出展している。
こうした現代作家の最新作と、過去の資料や作品は、交じり合って展示されている。ヒーローとピーポーの展覧会ではあるが、比重はピーポーの方に置かれている。それぞれの時代に現れた表現から、時代ごとの人々の姿が浮かび上がってくる。
小林学芸員は「どんな暮らしの積み重ねで今があるのか、日本人の自画像のようなものを作りたかった」と話す。「社会の分断が進むなか、考え方の違う人同士がどう共存していけるのか。過去を知ることで、未来を一緒に考えるきっかけになれば」
3月17日まで。月曜休館(2月11日は開館し、翌12日休館)。一般1300円など。兵庫県立美術館(078・262・0901)。(松本紗知)