一度は戦力外を言い渡されたプロ野球の球団に、独立リーグを経て復帰した投手がいる。DeNAで5季ぶりにプレーすることが決まった古村(こむら)徹(25)。富山での出会いと、背負うものの大きさが、飛躍につながった。
選手として初めて過ごす沖縄・宜野湾キャンプでは、充実した日々を送っている。ブルペンでは威力のある速球を投げ込み、個別練習はいつも遅くまで球場に残る。「食らいつくのに必死ですけど、これまでできなかったトレーニングができる。感謝しています」
古村は神奈川・茅ケ崎西浜高から2011年秋のドラフト8位で、DeNAに入団。だが左肩を痛め、13年から育成契約となり、翌年に戦力外通告を受けた。
15年は打撃投手としてチームを支えたが、本人の中では「ケガさえなければ、まだまだ成長できる。選手をめざす」。それだけの自信があった。退団し、独立リーグの愛媛へ。18年にBCリーグ富山に移籍し、そこで出会った伊藤智仁監督(現・楽天投手コーチ)の存在が大きかった。
古村の役割は中継ぎ。1球で勝敗が決まりかねないポジションだ。球速が上がった真っすぐを武器にするだけではなく、メンタルの強さも求められる。「伊藤さんは調子が悪くても、マイナスなことを言わない。『ストライクで勝負しろ』『どんどん行け』と。背中を押してくれるから、打者1人ごとにリセットできるんです」。今でもLINEで連絡が来る。「常に気にかけてくれる」恩人だ。
独立リーグでの3年間について、周囲から「つらかった?」「人一倍努力した?」と聞かれたことがある。だが古村は、ピンとこなかった。理由は「野球が好きだから」。それと、もう一つある。
母方の親族が、福島県浪江町の出身。2011年3月の東日本大震災と東京電力福島第一原発事故の影響で、避難を余儀なくされた。先が見通せない生活に比べたら「僕の苦しみなんて、ちっぽけ。つらいなんて、思いたくない」。今後、結果を残すことで「励みになれば」。異例のDeNA復帰は、その序章に過ぎない。(井上翔太)