宮崎市で春季キャンプを実施中のプロ野球・巨人は、第1クール最終日となる5日、実戦形式のシート打撃を予定している。ドラフト1位ルーキーの高橋優貴(八戸学院大)らが登板予定だ。4日の練習後、原辰徳監督は報道陣からプロ入り後初めてのシート打撃に関する思い出を問われると、記憶の扉が一気に開いた。
「すっごい緊張した。自慢話じゃないんだけど、初球を場外ホームラン。自慢じゃないよ」と、にこやかに振り返る原監督。鮮明に覚えている理由は、その強烈な打球以上に、対した投手と因縁があったからだ。
「藤城(和明)さんていうね……。もうこれは、忘れもしないんだけど……」。原監督は神奈川・東海大相模高時代、甲子園のヒーローだった。3年生になると、進路はプロ、それもドラフト1位での巨人入り、を思い描く。
しかし、願いはかなわなかった。「そのとき、ジャイアンツは『即戦力の投手がどうしてもほしい』と、スカウトが父親(原貢氏)に言ってきた。父は『ジャイアンツは、お前を1位指名できないって言っているぞ』と。わかった、僕はプロへは行かない。大学に行く、って」。
東海大に進んだ原監督は4年後、満を持して巨人から1位指名を受ける。そして最初の宮崎キャンプ、初めてのシート打撃。マウンドにいた藤城さんこそが、4年前、巨人にドラフト1位指名された投手だった。「この人が、そのときのドラフト1位だと」。悔しさを、一振りに込めた。
「初めて」は一度しかない。だからこそ選手には、そのたった一度の瞬間を無駄にしてほしくない。「みんなが注目している。高橋も一つの舞台にあがる。足もガタガタか、ガチッと投げるのか。しかと、見届ける」。そう言って、球場を後にした。(山下弘展)