東京拘置所では200人を超える報道陣が、ゴーン前会長の保釈を待っていた。午後4時17分、保釈手続きを担当していた弁護人の高野隆弁護士らが黒塗りのワゴン車を拘置所の正面玄関前に止め、建物内に。約12分後、布団やキャリーケースなどの荷物を持って外に出て、ワゴン車に積み込み始めた。
カルロス・ゴーン もたらした光と影
その2分後、玄関から10人ほどの拘置所職員が出てきた。職員らに挟まれるように、青い帽子にオレンジ色の反射ベストを身につけ、マスクをした男性がいた。背筋を伸ばし、ゆっくりとした歩み。黒塗りワゴン車の前を素通りし、前方に止めてあったスズキ製の軽ワゴン車に乗り込んだ。
埼玉県内の塗装会社の社名が書かれ、塗装道具が積まれた軽ワゴン車は、静かに走り出した。黒塗りワゴン車は停車したまま。弁護人も玄関付近に残っていた。
だが、軽ワゴン車の後部座席に座った男性の帽子とマスクの間には、特徴的な太い眉毛と鋭い目つきが見て取れた。「えっ、ゴーン被告?」。中継中のテレビ局の記者は声を裏返し、言葉に詰まった。他の報道陣も「変装か」とざわつき始めた。軽ワゴン車が拘置所敷地内をぐるりと回って車道に出ようとすると、カメラマンたちが一斉にシャッターを切った。
拘置所を出発した軽ワゴン車が行き着いたのは、東京都千代田区の弁護士事務所。車から出てきたのは、作業員風の服装から、濃いグレーのコートに着替えたゴーン前会長だった。事務所に入った後も、メディアの前で語ることはなかった。
法務省関係者によると、ゴーン前会長が着ていた衣服と移動用の軽ワゴン車は弁護人が用意したという。同省幹部は「変装して保釈なんて聞いたことない」。塗装会社の関係者は「車の塗装はやっていない」と語り、ゴーン前会長との関係は「全然わからないし聞いたことがない。もしかしたら、お客さんのつてでつながりがあったのかも」と語った。青い帽子には、埼玉県内の鉄道車両整備会社の社名が書いてあった。この会社の担当者は「日産とは取引がないし、今回の件も関係がない」と戸惑った様子だった。
なぜ、変装までする必要があったのか。日産の40代の女性社員は、「後ろめたいところがないなら、変装などせずに堂々と出てきてほしかった」と残念がった。別の30代の男性社員は「ゴーンさんは人の目を気にするタイプだから、変装してマスコミに追われないようにしたのでは」と推測した。
■妻と娘? にこやかな表情…