高松商(香川)は28日、市和歌山(和歌山)戦に挑んだが、惜しくも敗れた。課題だった長打力を冬場に身につけた選手たちのパワーの源には、「監督のおにぎり」があった。
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この日午前5時、ほの暗い神戸市内の宿舎のホテルの自室で、長尾健司監督(48)は炊飯器を開けた。中には炊きあがった7合のコメ。ラップを広げた机に出すと、手慣れた様子で握っていった。「握るのをやめると、調子が狂うんや」。あっという間に、30近くのおにぎりができあがった。甲子園入りしてから毎日つくっている。
長尾監督は保健体育科の教諭。県内の国立中学校の野球部を全国大会に導いた後、2014年監督に就任。16年には、選抜で準優勝を果たした。
部員におにぎりを握り始めたのは3年ほど前。体重を増やしてパワーをつけるには間食を増やすと良いと講演で聞いた。「選手の好みも分かる」と、部員らに休み時間に食べさせた。
初めは食べ残しもあった。朝早く起きて、ときには自腹を切ってつくっているのに、とショックだった。なんとか食べてもらおうと、具材も試行錯誤し、「味付けマグロフレーク」「魚肉ソーセージマヨ」など、今は十数種類のレパートリーがある。休み時間に食べられるよう、一口サイズにもした。
「ツナマヨ」が好きだという右翼手の浅野怜(れん)君(3年)は「野球でも普段の生活でも、僕たちが勝てるために自分の時間を割いてくれて、熱意を感じる」。
「選手は正直。好きなもんは、たくさん食べる」。今ではほぼ毎日、始業前に握る。半年ほど前からは、鍋でカレーやシチュー、ハヤシライスもつくり始めた。授業の合間に野菜を切るなどの下ごしらえをし、コメと一緒に部活前にふるまっている。
イチローは引退会見で、「妻に3千個のおにぎりを握らせたかった」と語った。長尾監督は「たぶん、俺のほうが多く握っとるんよ」。夏に向け、その記録はどんどん伸びていくに違いない。(小木雄太)