(28日、選抜高校野球 市和歌山6―2高松商)
ニュースや動画をリアルタイムで!「バーチャル高校野球」
高松商(香川)の三塁手篠原一球(いっきゅう)君(2年)は同校野球部OBの兄と姉が果たせなかった悲願をかなえた。
名前は「野球で活躍してほしい」と願って両親がつけた。兄仁一朗さん(24)と姉小梅さん(22)は同校野球部で甲子園出場を目指した。2012年、兄が主将だったチームは夏の香川大会準々決勝で敗れ、兄に憧れ、野球を始めた一球君も、球場から帰宅する車内で声を上げて泣いた。
姉は元マネジャー。部を支えたが甲子園には行けなかった。「末っ子の自分しかいない」。中学の入学前に「高松商で甲子園に出場する」と心に決めた。家族の目標にもなった。
中学校時代は、「すべては高商から甲子園に行くために」と書いた紙を部屋に貼った。部活動から帰宅後もほぼ毎日、庭で打撃練習に励み、チームは県大会で優勝。希望通り高松商に進学が決まり、グラブを新調することになった。
「グラブに入れる文字、何がええと思う?」。母の万澄さん(47)が家族にLINE(ライン)のメッセージを送った。「悲願達成」「高商一筋」などの案が出るなか、兄が「篠原家 最後の砦(とりで)」と返信し、全員が賛成した。
届いた黄色のグラブの手のひらのあたる部分に、ピンク色で刺繡(ししゅう)された。このグラブでレギュラーを勝ち取り、昨秋の四国大会で優勝した。刺繡を見ると支えてくれる家族の顔が浮かび、気を引き締め直したという。使い込んだグラブはすっかり茶色になった。
自分と家族の悲願をかなえ、新たに「甲子園で活躍し、勝ち上がる」と目標を掲げてこの春、グラブを新調した。刺繡した言葉は「夢叶(かな)うまで」。
それでも古いグラブをしまっておけず、家族の思いが詰まっていると感じ、甲子園に「お守り」として持ってきた。
23日の1回戦ではベンチに持ち込んで勝利。だが2回戦の28日は宿舎に忘れてきてしまった。甲子園初安打を放ったが、六回の好機では凡退。記者に問われて「それで負けたのかな」。
万澄さんらは2戦とも、甲子園の舞台でプレーする一球君にアルプス席から声援を送った。「楽しませてもらった。夢の夢のまた夢の舞台で、楽しそうにプレーしている姿がよかった」。小梅さんは「またこの舞台に連れてきてほしい」。一球君は「家族は満足していたけど、僕は満足してない。残りも全部、甲子園に出る」とさらに上を目指す。(小木雄太、山田知英)