10年前の秋、埼玉県熊谷市で10歳のサッカー少年がひき逃げされ、命を落とした。県警の遺品紛失や公文書の破棄の疑いが明らかになったが、少年の母が何よりずっと願ってきたのは、事件の解決だ。時効まであと半年。母は加害者へ「事件の真実を聞かせて」と願う。
2009年9月30日午後7時前。習い事を終え、好きなテレビ番組を見ようと自転車で帰宅する途中だった。小学4年の小関孝徳(こせきたかのり)さんが車にひかれて亡くなった。
小3からサッカーを始め、厳しい練習にも弱音を吐かなかった。「優しく、気遣いのできる子だった」と母の代里子さんは言う。2人だけの家族で、家の手伝いもよくやってくれた。
「私に犯人は捕まえられない。でも何かきっかけになれば……」。代里子さんは事故後、孝徳さんの友達の母親らと現場に立った。通る車のナンバーをメモし続け、県警に提出。その数は約10万台分に及んだ。
しかし、目撃情報や物証の少なさなどから、捜査は難航した。交通捜査課によると、これまで約270件の情報が寄せられたが、有力な情報はない。現場のタイヤ痕から「排気量1800~2千ccの普通乗用車」とみて県内外の車を調べてきたが、犯人につながる手がかりはつかめていない。
現場は幅約7・6メートルの片側1車線の直線道路。近くには複数の幹線道路が走り、代里子さんによると、それらが混雑している場合は抜け道として使われるという。捜査関係者は「犯人は付近の地理に詳しいか、この道を使い慣れた人物の可能性が高い」とみる。
道交法違反(ひき逃げ)の時効は16年に成立。県警は時効が10年の自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死)容疑で捜査を続けているが、その時効も、今年9月30日に迫っている。
事故当時、孝徳さんは10歳の誕生日に代里子さんからプレゼントされた腕時計をしていた。「好きなものを選んでいいよ」と勧めても、孝徳さんは母を気遣ったのか、安い腕時計を選んだという。
県警は事故後、遺品の腕時計を証拠品として押収していた。だが時効まで1年を切った昨年10月、母親と捜査員が会話したのがきっかけとなり、腕時計がなくなっていたことが判明した。
県警は提供してもらう際に腕時計の「押収品目録交付書」を代里子さんに渡していた。その後、紛失に気づいた別の捜査員=定年退職=が、発覚する前に代里子さんから交付書を回収し、破棄していた疑いも浮上した。
「腕時計は、見つけだしてほしいし、ひき逃げ犯も逮捕してほしい」と代里子さん。時効が迫る中、切迫感が募る。「あの日に何があったのか、とにかく、今は真実が知りたい」
今年1月には「多くの人に事件を知ってもらいたい」とブログを開設した。孝徳さんの生前の様子や時効が近づく現在の心境などをつづりながら、情報提供を呼びかけている。更新を続ける理由の一つに、どこかで犯人の目に触れてほしい、と願う気持ちもある。
ブログは「《未解決》熊谷市小4男児死亡ひき逃げ事故《時効まであとわずか》」(
https://ameblo.jp/kosekitakanori/
)。情報提供は高橋正人法律事務所(03・3261・6181)まで。(笠原真)