人口の減少や節水によって使用量が減る中、水道管の更新費用が負担となり、経営悪化が懸念される水道事業。運営する自治体はいま、新たな危機と向かい合っている。経費削減のために自前で地下水を使う施設が増え、水道の料金収入が大幅に落ち込む事態が起きているためだ。
静岡県磐田市の大型商業施設は3年前から地下水を使い始めた。衣料品や雑貨、インテリアの店舗のほかフードコートも備え、年間約14万トンの水を使う。その半分程度を地下水に切り替えることで、水道使用量を減らしていた。
一方、市水道局にとっては年1千万円余の減収だ。市の水道料金収入の0・5%前後で、一般家庭約200世帯の1年分にあたる。「市内で一、二を争う大口客。できれば水道を使ってほしかった」と担当者。
今後は老朽化が進む水道管の更新などに多額の経費がかかり、経営は間違いなく厳しくなる。そこに大口客による地下水への切り替えが増えれば痛手になる。
施設側にすれば、地下水を使い続ければ、切り替え時の整備費を含めても割安になる。災害時に複数の水源も確保できる。このため、今後も併用を続ける方針だという。担当者は「市の水道料金は他の自治体と比べて低い方だが、それでも地下水を使うメリットがある」と話す。
こうしたケースは各地で相次ぐ。千葉県流山市でも大口客の学校法人が6年前に地下水に切り替えた。水道の使用量は直前1年間と比べて4%に激減。市の料金収入は1千万円近く減った。
背景には、比較的安価で地下水を導入できる技術の普及や災害への備えがある。全国に730以上ある災害拠点病院は、災害時の水の確保が要件になっているなど、井戸を整備して日常的に地下水を使うことも多い。地盤沈下を懸念して条例で規制する自治体もあるが、条例がない地域では制約が少ない。
日本水道協会が昨年春に実施した調査では、回答した自治体などの水道事業者の46%にあたる187が、地下水を使い始めた施設を1件以上把握していた。2008年度からの約10年間で計1195件。03年度からの約5年間では計676件で、増え続けていることがわかった。一方、地下水を使う施設を把握できていない事業者も142(35%)あった。
水道事業は原則、市町村が運営し、給水対象が5千人超の事業者では、経費を料金収入でまかなう「独立採算」が基本だ。水道は基本料金に加え、使えば使うほど増える従量料金があるため、使用量が大幅に減れば経営への打撃は大きい。
地下水を使う施設の場合、水道の契約も続けるため、水道事業者は給水設備を維持する義務もあり、コストを回収できなくなる。
また、従量料金は一般的に大量に使うほど割高に設定され、その分、一般住民の料金が安く抑えられてきた。地下水利用が広まれば、一般住民の料金が高くなる恐れもある。
■基本料金値上げで回収する自治…