全世界に衝撃を与えた、パリのノートルダム大聖堂の火災。キリスト教会をはじめ、歴史的な建造物や貴重な文化財を災害からどう守るのかという難しい課題が、あらためて浮き彫りになっている。
30分前に警報、異常確認できず ノートルダム火災
教会には建築物としての価値があるものが多く、ルネサンス期のフレスコ画など貴重な美術品も保管されている。だが、防火対策が十分でないのが現状だ。
障害の一つは、複雑に分かれた所有権だ。バチカン関係者によると、教会やその文化財にはバチカン(法王庁)直轄のものや、ノートルダム大聖堂のように国(フランス)所有のもの、団体や個人所有のものがある。修復や防災対策は所有者がするのが基本。対策を取っていない個人所有の教会があるという。昨年には、ローマ市内にある16世紀の教会の屋根が老朽化して崩落する事故があった。
また、イタリアでは、各教会に防災責任者がいるものの、自前で消防団のような防災組織を作っているケースは極めて少ない。法令上も、教会などの「礼拝所」は火災のリスクが少ないとして、安全点検の義務はないとされる。壁画などを損傷してしまうおそれがあるため、スプリンクラーなどが設置できないという事情もあるとみられる。
修道会に所属する聖職者の一人は「修道院には、イタリアの国内法に準じて火災報知機などが設置されているが、防災訓練はない。バチカンが全世界の教会に向けて一致した防火対策を取るのは所有者の問題もあり不可能だと思うが、今回の火災を機に、対策を検討せざるを得ないのではないか」と話す。(ローマ=河原田慎一)