旧優生保護法(1948~96年)の下で障害のある人らに不妊手術が行われた問題で、被害者への「おわび」と一時金320万円の支給を盛り込んだ議員立法の救済法が24日午前、参院本会議で全会一致で可決され、成立した。救済法は今週中に施行され、6月にも支給が始まる見通し。旧法成立から71年で、国会がようやく救済策を講じる。
欧州訪問中の安倍晋三首相は救済法成立を受け、「政府としても、旧優生保護法を執行していた立場から、真摯(しんし)に反省し、心から深くおわび申し上げます」との談話を書面で発表した。ただ、各地で続く国家賠償請求訴訟への影響を避けるため、旧法の違憲性や救済策を講じなかったことの違法性には一切触れなかった。
「不良な子孫の出生を防止する」ことを目的に不妊手術を推し進める旧法は議員立法で、48年に全会一致で成立した。96年にこうした不妊手術に関する条項を削除して母体保護法へ改正されてからも、国会と政府は問題を放置してきた。
宮城県内の60代女性が昨年1月に全国で初めて訴訟を起こしたことで、与野党は法整備に動き始めた。ただ、政府は訴訟で違憲性の認否を避け、国の責任も認めていない。
そのため、救済法の前文には「我々は、それぞれの立場において、真摯に反省し、心から深くおわびする」と記してあるが、違憲性などには絡めない形となっている。救済法づくりに関わった与野党議員は、「『我々』とは、旧法を制定した国会や執行した政府を特に念頭に置くものだ」と説明している。
救済法は、被害者本人の請求に基づき、被害の有無を認定すると定める。請求期限は法施行後5年間。手術記録がない場合も含め、幅広く救済対象とする。一時金を受け取っても訴訟の継続や提起は制限しない。救済制度について周知を図るが、本人への個別通知はしない。
被害弁護団は「国の謝罪」が明記されておらず、一時金も「相当に低額」と反発。配偶者や遺族も救済対象とするべきで、本人への個別通知も必要だと主張している。不妊手術をめぐる国賠訴訟は7地裁で20人が原告となっており、原則3千万円以上の支払いを求めている。
救済法のポイント
◆前文に反省とおわびを明記
◆不妊手術の記録がない場合なども含めて幅広く救済
◆被害者本人からの請求に基づいて被害を認定し、一律の一時金320万円を支給。請求後に本人が死亡し、被害が認定された場合は遺族や相続人に支給。請求期限は法施行後5年間
◆手術記録がない場合の被害認定は厚生労働省内に設置する第三者機関「認定審査会」で行う
◆障害者手帳の更新時などを利用して救済制度の周知を図るが、被害者本人への個別通知はしない
◆国会で、旧優生保護法の立法経緯や被害実態についての調査を行う
旧優生保護法ができたのは1948年。戦後、参院議員が発案した法律の第1号だった。法案提出の中心となった谷口弥三郎参院議員は、「遺伝病者の出生を抑制することが、国民の急速な増加や逆淘汰(とうた)の防止から極めて必要」と訴えた。全会一致で成立した。
旧法に対しては、70年前後から障害者が抗議の声をあげ、国会も80年代には旧法の問題点を認めていた。83年の自民党優生保護法等検討小委員会がまとめた文書には、「不良な子孫の出生防止」という法の目的などを挙げ、「今日の社会思潮と医学水準に照らして法の基本面に問題がある」との記載がある。だが見直しには手をつけなかった。強制不妊手術は92年まで続いた。
国際社会の批判を背景に、国会は96年、旧法の見直しを提案。社民党の和田貞夫衆院議員は「優生思想に基づく部分が障害者に対する差別となっている」と理由を説明した。謝罪や補償をめぐる実質的な審議なしに、母体保護法に改めた。
その後、被害者への補償を市民団体などが求めてきたが、昨年1月に被害者が提訴するまで、国会は救済に動かなかった。
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首相、談話で「反省とおわび」
旧優生保護法の下で障害のある人らに不妊手術が行われた問題で、議員立法の救済法が24日午前に成立したことを受け、欧州訪問中の安倍晋三首相は、「政府としても、旧優生保護法を執行していた立場から、真摯(しんし)に反省し、心から深くおわび申し上げます」との談話を書面で発表した。ただ、国家賠償請求訴訟への影響を避けるため、旧法の違憲性や救済策を講じなかったことの違法性には一切触れなかった。
談話では「多くの方々が、特定の疾病や障害を理由に、生殖を不能にする手術等を受けることを強いられ、心身に多大な苦痛を受けてこられました」とし、反省とおわびをした。また、「このような事態を二度と繰り返さないよう、全ての国民が疾病や障害の有無によって分け隔てられることなく相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向けて、政府として最大限の努力を尽くす」と強調した。
救済法には、被害者への「おわび」と一時金320万円の支給が盛り込んである。