新元号「令和」は、安倍晋三首相の指示で政府が3月に複数の学者にさらなる考案を求め、国文学者の中西進氏が同月下旬に追加で提出した案だったことがわかった。首相が同29日の皇太子さまとの面会で、「令和」を含む六つの原案を示していたことも判明した。
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複数の政府関係者が明らかにした。首相は2月末、「国民の理想としてふさわしいようなよい意味」「書きやすい」「読みやすい」といった留意事項に基づき、事務方が絞り込んだ十数案について初めて報告を受けたが、学者に追加で考案を依頼するよう指示した。
政府は3月14日付で国文、漢文、日本史、東洋史などの専門家に正式委嘱。その前後の3月初めから下旬にかけて、国書と漢籍の複数の学者に追加の考案を打診した。その求めに応じて提出された複数案の一つが、中西氏が3月下旬に出した「令和」だった。
首相はその後、28日の首相官邸幹部らによる協議で「英弘(えいこう)」「久化(きゅうか)」「広至(こうし)」「万和(ばんな)」「万保(ばんぽう)」「令和」を原案とする方針を決定。政府関係者によると、首相は翌29日、皇太子さまとの一対一の面会で六つの原案を説明したという。
新元号「令和」は、4月1日の有識者による元号に関する懇談会、衆参両院正副議長への意見聴取、全閣僚会議を経て決まったが、首相は政府がこうした国民代表に意見を聴く前に、新天皇となる皇太子さまに元号案を説明していたことになる。皇太子さまへの事前説明は、日本会議などの保守派が求めており、自らの支持基盤に対する政治的な配慮だった。
憲法4条は天皇の国政関与を禁じている。皇太子さまは即位を目前に控えた立場だが、政府は「意見を求めず状況報告するだけなら、憲法上の問題は生じない」(内閣法制局幹部)としている。
これに対し、高見勝利・上智大名誉教授(憲法学)は「皇太子への事前説明は、元号の制定を天皇から切り離した元号法の運用を誤るものだ」と指摘。そのうえで「憲法4条は政治の側が天皇の権威を利用することも禁じている。特定の政権支持層を意識した首相の行為は、皇太子に意見を求めたかどうかに関係なく『新天皇の政治利用』にあたり、違憲の疑いがある」と批判している。