インドのモディ首相の生い立ちを描いた新作の伝記映画について、同国の選挙管理委員会がこのほど、23日に開票予定の総選挙が終わるまで公開してはならないと決定した。同国最大の娯楽である映画が投票行動に与える影響を懸念したためだ。与党は「表現の自由の侵害だ」と反発している。
問題の映画は「首相ナレンドラ・モディ」。モディ氏がチャイ(紅茶)売りをしていた貧しい少年時代から、グジャラート州首相を経て首相になるまでを描いた135分の長編作品だ。モディ氏の役は、人気俳優のビベク・オベロイさんが演じている。
当初は、1カ月余り続く総選挙の投票初日にあたる4月11日に劇場公開されるはずだったが、その前日に選管が「待った」をかけた。理由は「伝記映画というよりも、個人が過度に美化され、崇拝の対象となっている」から。映画制作会社も同意し、選挙後に公開することを決めた。
地元メディアによると、この映画の中でモディ氏は、野党国民会議派を「44年間おしゃべりしていただけの政権」と批判し、「パキスタンにカシミール地方を手放せと警告しろ。さもないと我々が彼らをぶっつぶす」と愛国心をあおっている。閣僚に「賄賂を一切受け取らず、寝ずに働き、我々にもそれを求めるので気が狂いそうだ」と言わせ、モディ氏を持ち上げる場面もある。
インド映画は、世界トップの制作本数と観客動員数を誇り、その影響力が政治利用されることもある。1月には、モディ氏の前任のシン前首相や国民会議派を揶揄(やゆ)する映画が公開されている。(ニューデリー=奈良部健)