サウジアラビアの石油タンカーやパイプライン施設が損傷したり攻撃されたりする事件が相次いでいる。サウジと対立するイランが事件に関与したとの指摘が一部にあり、経済制裁などで米国が「イラン包囲網」を推し進めるなか、中東地域で偶発的な衝突が起きる懸念も出ている。
「世界の原油供給の安全を害することを狙った行為だ」。サウジのファリハ・エネルギー産業鉱物資源相は13日、こう非難した。
サウジ国営通信などによると、タンカー2隻がアラブ首長国連邦(UAE)沖合を航行中、「妨害攻撃」で損傷したのは12日早朝。けが人や原油の流出はなく、うち1隻には米国向けの原油が積み込まれる予定だった。UAEは計4隻が被害にあったとしている。
誰が攻撃したかは不明だが、米メディアは、イランやその傘下の武装勢力が事件に関与したとの、米軍の初期分析を報じた。
米国は昨年5月にイラン核合意から離脱し、今月にはイラン産原油の全面禁輸措置を開始。さらに、原子力空母エイブラハム・リンカーンを中心とする空母打撃群やB52爆撃機の部隊を中東に展開し、イランへの圧力を強めている。
米ニューヨーク・タイムズは13日、イランが米軍を攻撃したり、核兵器開発を加速させたりすれば、最大12万人の兵員を中東に送るという計画を、シャナハン国防長官代行が示したと伝えた。トランプ大統領は14日、「偽ニュースだ」と否定。一方、仮にそうした事態になれば「もっと多くの兵員を送る」と語り、イランを強く牽制(けんせい)した。
パイプラインにドローン攻撃
こうしたなか、14日には、サウジを東西に横断する石油パイプライン施設2カ所がドローンによる攻撃を受ける事件が起きた。
犯行を主張したのは、隣国イエメンの反政府武装組織フーシ。同国では、暫定政権を支援して軍事介入もするサウジと、フーシの後ろ盾になっているイランとの「代理戦争」で内戦が長期化している。フーシは11日に一部地域の停戦合意に基づき、西部ホデイダの港から戦闘員の撤退を始めたばかりだが、組織内の強硬派が圧力を強める米国などに反発して、攻撃に踏み切った可能性もある。
ファリハ氏は「世界への原油供給とグローバル経済が標的になった。イランが背後にいるフーシなどと対峙(たいじ)することが重要だと、再び証明された」と述べ、事件へのイランの関与を強調した。サウジは、米国と足並みをそろえてイランの脅威を国際社会に声高に主張し、イランの孤立化を促す動きを強めている。
一方、イランは一時、精鋭部隊・革命防衛隊がホルムズ海峡の封鎖を示唆して、米国などとの対決姿勢を強めたが、最高指導者ハメネイ師が14日、「米国との戦争は求めていない。それは米国も同じだ」と強調。米国との武力衝突を避ける意向を示し、情勢の沈静化を狙っているとみられている。
ただ、ハメネイ師は「(米国との)交渉は毒を飲むようなものだ」とも述べ、トランプ政権との交渉には臨まない姿勢をあらためて示してもおり、情勢が好転する見通しはない。(ワシントン=渡辺丘、テヘラン=杉崎慎弥、ドバイ=高野裕介)