そごう・西武、ロフト、グリコ――。今年に入ってから、女性にまつわる大企業の広告がインターネット上で批判を受けて「炎上」する事例が相次いだ。一連の広告表現をめぐっては、「女性差別をあおりかねない」「不快だ」といった声の一方で、「そこまで批判するほどのことか」「なぜ炎上するのかわからない」という反論も。広告をめぐる炎上について、ジェンダー問題や企業広告に詳しいジャーナリストの治部れんげさんに分析してもらった。
ロフトは1月、「女の子って楽しい」とするバレンタイン用広告を発表した。表から見ると仲良くしている5人の女の子が、裏から見るとスカートの上からつねったり、髪の毛を引っ張ったりするイラストや、女性の友情を揶揄(やゆ)するような動画広告が流された。すると「女性をバカにしている」といった批判が殺到し、ロフトはキャンペーンを取り下げた。
菓子大手の江崎グリコは2月、子育て用アプリ「こぺ」の宣伝サイトを立ちあげた。「パパのためのママの気持ち翻訳」と題し、妻が怒ったときの言動を8パターン紹介。「一緒にいる意味ないよね」の言葉の本心は「私のこと、どう思ってるのかな?」、「これするの、大変なんだからね!」の本心は「感謝してね」。グリコがツイッターでこのアプリを取り上げたところ、SNSなどでは「女性蔑視」などの批判が広がり、同社はコンテンツを取り下げた。
治部さんによると、この二つの広告には共通点があるという。いわゆる「あるある」ネタであることだ。
「女性は表面的に仲が良くても裏ではいがみあっている」「女性は感情的で本音が言えない」といった女性に対する固定観念を広告のモチーフにすることについて、治部さんは「大企業が顧客である女性に向けて言っているところに問題がある」と指摘する。家事・育児の負担の偏りをなくしていくなど、社会的課題を理解して解決する方向に努力すべき大企業が、女性に対する固定観念を助長しかねない広告表現を容認するのは問題があるという見方だ。
百貨店大手のそごう・西武は今年の元日、女性がパイを投げつけられる写真に「女の時代、なんていらない?」というコピーを添えた広告を店舗の外壁などに大きく掲示した。企業側は、さまざまな困難に立ち向かう女性を応援したいという思いを込めた広告だと説明したが、ネット上では「写真が不快」「男女差別の社会構造を無視し、個人の問題に矮小(わいしょう)化している」といった批判が相次いだ。
この広告についても治部さんは「大企業のメッセージとしては不適切」という。女性がさまざまな困難を抱えている社会の状況を改善しなくてはいけないのに、広告が「『個人ががんばって』という自己責任論になっている」という指摘だ。
治部さんは「広告表現は企業の社会的責任に関わる問題。海外では近年、企業として社会問題を解決していこうというメッセージを発する広告が評価されている」と話す。
固定観念を助長しかねない「あるある」で共感を呼ぼうとするよりも、固定観念にとらわれず社会の課題を解決していこうという姿勢を示すことの方が、企業にとってはむしろ消費者の支持を集める早道になるのかもしれない。(栗林史子、高橋末菜)