育児休業から復帰した直後に出向を命じられるといった嫌がらせで精神的な苦痛を受けたなどとして、スポーツ用品大手アシックス(本社・神戸市)の男性社員(38)が28日、慰謝料440万円の支払いなどを同社に求めて東京地裁に提訴した。
訴状によると、男性は2011年にアシックスに入り、スポーツイベントのプロモーションなどを担当。人事政策室にいた15年2月から2回に分けて育児休業を取得した。16年6月に育児休業から復帰した直後、当時の上司から「物流に行ってください」と茨城県にある物流子会社への出向を命じられた。出向先の物流倉庫では荷下ろしや梱包(こんぽう)などの業務に従事したが、1週間後に肩をけがした。
その後、弁護士を通じアシックスと交渉すると、同年10月に人事管理部に移り、障害者雇用について調べるプロジェクトチームに入るよう命じられたが、実際は1人で作業し、約8カ月間、何の指示もなく放置されたこともあった。現在は1人で就業規則の英訳などを命じられているという。男性は、これらの会社の命令や指示が育児休業の取得を理由とした嫌がらせを禁じる育児・介護休業法に違反すると訴えている。
都内で記者会見した男性は、物流子会社への出向を命じられた日に社内の労働組合に相談したものの、「与えられた環境で頑張ってくださいといわれた」といい、交渉してもらえなかったと明かした。その後、18年に個人で加入できる社外の労組に加盟して会社と交渉してきたが満足いく回答を得られず、提訴に踏み切ったという。男性は「暗いトンネルを進んでいるような気分だった。会社はこの事件を正面から受け止めてほしい」と話した。
アシックスは取材に対し「訴状が届いていないので、当社社員の主張についてのコメントは差し控えたい。これまで当社社員の代理人弁護士や、社外の複数の労働組合も交えて順次、誠実に交渉を続けてきたが、最終的な解決に至らずに残念だ。当社としては今後、裁判の中で事実を明らかにしていきたい」とコメントした。(吉田貴司)