経済成長とともに旅客数が増加し、拡大を続ける中国の航空業界。パイロットの需要が増え続ける中、中国の空に新たな一歩を踏み出し、翼を担う日本人パイロットたちがいる。
JALの経営破綻で転身
中国・上海に本社を置く「吉祥航空」。4月中旬の朝、空港近くの事務所では、機長の伊藤充志(あつし)さん(37)が2人の中国人副操縦士とともに、航路の確認をしていた。この日のフライトは、上海発西安行きの便。客室乗務員も交え、英語でのミーティングを終えると、会社のバスに乗り込み空港へと向かった。
大学卒業後の2005年、日本航空(JAL)にパイロット候補の訓練生として入社した。基礎訓練、米カリフォルニア州ナパの訓練所での実機訓練などを重ねていた10年1月、JALが経営破綻(はたん)。訓練生への訓練は中止になり、会社から地上職への配置転換か早期退職を求められた。
パイロットとして世界の空を飛びたいという夢があった。同年秋、JALを退社し、静岡空港を拠点とする新興航空会社のフジドリームエアラインズ(FDA)に入社。訓練を経て副操縦士になって経験を積み、15年、33歳で機長になった。
米国への留学経験もあり英語が得意。いつかは海外の航空会社で働きたいと考え、パイロット仲間などから海外の採用情報を集めていたところ、吉祥航空が機長を募集していると聞いた。中国でパイロットとして働くには、中国の国家資格が必要。まず中国航空当局の試験や健康診断を受けて資格を取り、同社の面談を経て採用が決まった。上海に引っ越し、17年5月から吉祥航空で働く。
今は4日勤務して2日休みのペースで主に中国国内の定期便を担当。西安の歴史ある街並み、内モンゴルの草原、海南島の海岸など、上空からの景色の多様さに中国の広さを実感する。
経験豊かな外国人機長や、貪欲(どんよく)に技術を学ぼうとする中国人の副操縦士たちにも刺激を受ける。休日には中国語を学び、家族とともに上海近郊の都市へも遊びに行く。「人からも街からも毎日エネルギーをもらっている」と話す。
吉祥航空は06年に運航を開始。上海を拠点に国内外に就航便を着々と増やし、現在は東京(羽田)、大阪(関西空港)への直行便など日本便も含めて約120路線の定期便を持つ。国内線の新規就航が相次ぐほか、6月には北欧フィンランド・ヘルシンキ―上海の直行便が就航するなど、国際線の拡張も続く。パイロット確保は最重要課題だ。
現在同社のパイロットは約1050人。うち外国籍は約140人にのぼり、韓国や米国、カナダ、スペインなどから、経験豊富な機長を採用している。
経験豊富な外国籍機長のニーズは高く、中国の航空各社は報酬などで手厚い待遇を提示しているといいます。記事後半では「パイロット争奪戦」という中国の空の現状を専門家に聞きました。
■手厚い待遇…