哺乳類の多くが手足に水かきを持たないのは、胎児期に指の間で「細胞死」が起きて細胞が取り除かれるためであることが知られている。では、「細胞死」はなぜ起きるようになったのか。そこには大気中の酸素が重要な役割を果たしていることを日米の研究チームが発見し、国際科学誌に発表した。進化の過程で、動物が水中から酸素の多い陸上へ進出したことが関係しているという。
鳥類や哺乳類の手足を形づくる「細胞死」は、カエルなどの両生類の多くでは起きていない。研究チームは、両生類が幼生のころを水中で暮らすことが「細胞死」の有無に関係するのではないかと考え、大気中の酸素の役割に着目した。
そこで、足に水かきのある両生類のアフリカツメガエルのオタマジャクシを、高濃度の酸素を入れた水槽で育ててみた。すると、成長するなかで、本来は起こらない細胞死によって水かきがなくなった。
同じカエルでも、オタマジャクシの時期がなく、陸上で卵からカエルの姿のままで生まれるコキコヤスガエルを調べると、体内に取り込んだ酸素から生まれた「活性酸素」が指の間で発生し、細胞死が起きていた。一方、低酸素状態でニワトリの足の細胞を6時間ほど培養すると、細胞死が起こらず、本来ないはずの水かきが残ったまま成長したという。
研究チームの田中幹子・東京工業大准教授は「指の間で起こる細胞死によって、手足の形は多様な進化をした。今回の成果は、陸上に進出した動物の行動や生活圏が広がったプロセスを解き明かす鍵になるだろう」と話した。(杉本崇)