グラウンドに散らばったボールを部員が脇目もふらずかごに戻していく。「急げ急げ」「遅いぞ遅いぞ」。すべてのボールを入れ、マネジャーがストップウォッチを止める。「57秒です」「よっしゃあ! 1分切った」
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日立一高(茨城県日立市)の練習では、着替えやキャッチボール、球拾いなど、あらゆる時間をマネジャーが計り、メンバーに伝える。着替えは3分以内。球拾いは普段より10秒長ければ、その分誰かが手を抜いていることになる。平日の練習時間は3時間ほど。高橋亮裕主将(3年)は言う。
「1球でも多く練習できるよう、1分1秒を削り出したい」
無駄な時間を減らすことを含め、練習のテーマは「考える野球」だ。象徴的なのは打撃練習。一、二塁間に強いゴロを放つことが求められる「エンドラン」、2ストライクに追い込まれてから粘る「アプローチ」、狙った球種を1球で仕留めるため、投手が球種を打者に伝える「決め打ち」など、ケージごとに設定を変える。
グラウンドはサッカー部、ラグビー部と共用で、広いスペースが取れない。部員45人を3班に分け、2カ所で打撃をする間、1班はグラウンド脇のトレーニング室で筋トレに励む。
それぞれの課題を自覚するためにも「考える」。
「低めに強くなります」「エンドラン上手くなります」。部員たちは毎日グラウンドに入る時、その日の練習で何を意識するかを、大声で宣言する。「おいおい、それじゃゲッツーだろ」。宣言通りにできていないと仲間から声が飛ぶ。
グラウンド横の掲示板には、めざす選手像と課題、具体的にどう行動するかを書いたシートが貼られている。「1日で必ず全員と話す」(捕手の城井亮仁君)「広い視野を持つことを意識し、毎日一つ以上ゴミを拾う」(高橋主将)……。みんなの課題を「見える化」することで、気づいたことを指摘し合える環境を作るのが狙いだ。
球拾いの時間を計り、常に試合の場面や自分の課題を考え練習する――。これらは、2011年に監督に就いた中山顕監督(48)が導入した。自身も日立一高の野球部OBだが、当時と比べると、今は授業が終わるのが1時間ほど遅い。特に今年から、木曜日は7時限までに増え、練習時間も短くなった。限られた時間でどう効果的に練習するか、考えた末に生まれたのが今のスタイルだ。
「考える野球」は同校の伝統である文武両道とも直結する。野球部も全員が国公立大学志望だ。2年前の夏に米国から帰国し、同校に編入した鈴木海翔君(3年)は「野球部に入ってから、勉強の仕方ももっと効率的に出来ないか考えるようになった」と話す。
数学模試で全国1位をとったことがあり、甲子園出場と東大合格をめざす高橋主将は「課題を分析し、優先順位を付けて克服するのは野球も勉強も同じ」と言い切る。「監督のサインを含め、全員が意図を共有することで生まれる多彩な攻撃が強み。『考える野球』で強豪私学を倒したい」