(16日、高校野球兵庫大会 西宮東7―0県伊丹)
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「元プロ」の父は、温かくも鋭い目で打席の息子を見つめていた。
兵庫大会3回戦。西宮東の主将で4番、大貝龍輝(3年)は一回に中前へ先制適時打を放った。「あれで気持ちが楽になった」と、七回はコールド勝ちを決める2点本塁打を右越えに放った。
数日前に導入した「新フォーム」が功を奏した。父・恭史(やすふみ)さん(46)から、「打つときに右ひざが早く開いてしまっている」と助言を受け、上げていた右足をすり足にかえて試合に臨んでいた。
恭史さんは1993年のドラフト4位で社会人のNTT四国から日本ハムに入団。俊足の外野手として2002年まで現役を続け、03年から3年間は外野守備走塁コーチも務めた。
息子は父の現役時代の記憶はほとんどなく、札幌ドームでランナーコーチをする姿を覚えている程度だ。それでも、身近にあった野球を始めるのは自然の流れだった。
退団後、会社員になった恭史さんは「元プロ」であることをあまり表に出さずに生きてきた。息子の少年野球にも、あまり顔を出さなかった。
「元プロの息子って言われるのは、かわいそうじゃないですか。チームには指導者の方もいるし、僕が行くことで迷惑がかかるかもしれない」。気持ちの優しい龍輝に、「元プロの息子」という重圧を背負わせるのは嫌だった。
数年前にアマチュアの指導資格を取得した恭史さんは週末を中心に、母校・鳴門(徳島)の指導へ。龍輝の試合はたまに見る程度にとどめた。ただ、妻の有季さんから携帯に試合の動画を送ってもらい、龍輝のフォームは常にチェックはしていた。
元野球選手の血は、やはり、騒ぐ。この日の相手、県伊丹は好左腕、執行(しぎょう)を擁し、上位進出に向けて山場となる対戦だった。息子に細かく攻略法を助言するわけでもないのに、「昨日の夜から執行くんの映像をずっと見てたんですよ」と有季さんが明かす。
龍輝は言う。「小学校でも中学校でも、黙っていても、お父さんが元プロっていうのはすぐにばれていました。でも、だから試合に出られるとか、『元プロの子どもなのにたいしたことない』とか言われるのは絶対に嫌だった」と。
そんな反骨心も支えに、西宮東では昨年から主軸。今夏の目標は西宮東として初の甲子園に出ること、そして、「甲子園で鳴門を倒す」こと。息子の血もまた、騒いでいる。(山口史朗)