人生の再起をかけた戦い、家族愛、夫婦の絆……。観客の心をとらえるテーマがすべて盛り込まれている。それでいて、決してまとまりを欠くことなく、2時間を優に超える上映時間にもかかわらず、1分たりとも飽きることはない。その巧さは、さすがと言うよりほかない。
ジム・ブラドック。23歳のときにチャンピオンになるもケガに悩まされ、じょじょに光を失い、やがて、その偉業はまったくの過去のものになってしまった元ボクサー。そんな彼にチャンスが巡ってくる。試合欠場のボクサーの身代わり。負け試合だとはわかっている。でも彼は、「子供たちに楽をさせてやりたい」、その一心で出場を決意する。
これはもちろん、ジム・ブラドックというひとりのボクサーが、家族のために闘う姿を描いたスポ根映画だ。しかしその背景には、もっと深いものが隠されている。それは、妻なり夫なりの、伴侶に対する愛情と信頼。
「仕事もない、故障だらけの自分となぜ結婚したのか」--ジムはある晩、妻に問う。それに対して妻メイはこう答える。「ほんとね、男は大勢いるのに」。たったそれだけ。でも、あれこれと理由を並べるよりも、この短い言葉からは、よっぽど強い彼女のジムに対する愛と尊敬の念が伝わってくる。
また、彼女はこんなことも言っている。「あなたは私の心のチャンピオンだ」と。それに対してジムは「君の支えなしでは勝てない」と返す。なんと美しい夫婦愛。愛し合って結婚しても、1カ月もしないうちに相手の欠点が見え始め、1年もたつと「この結婚、間違ってたかも」と思うようになり、3年以降は愛とか恋とかそっちのけで、ひとまず「家族として」一緒に暮らすだけになってしまった夫婦には、とてつもなくうらやましい2人の姿。
妻の夫への信頼はまた、ジムの元マネージャー、ジョーの妻にも見て取れる。ジムに引退してもらいたいメイは、ある日ジョーの家を訪ねる。そこで、ある光景を目にした彼女は、ジョーの妻からこんなことを言われる。「何かをしようと決めたご主人を止めることができて? 女は、男の決意を見守るだけ」。素晴らしい「内助の功」ぶり。
人間とは単純な生き物だ。自分が誰かに必要とされているという確信が持てれば、どんな苦労にも立ち向かっていける。そこに愛する人、守るべき人がいれば、その人のために命を賭けることさえできる。
自分はあなたを必要としている、あなたを愛している--それをどんな形ででもいい、相手に伝え、相手は、その思いを受け止め、彼/彼女を支える。それこそが、理想の夫婦像、あるべき伴侶の姿なんだ、そんなことを、この2組の夫婦に改めて教えられた。
これは、性別、年代を超えて、多くの人にお勧めしたい作品ですが、そのなかでも特に、倦怠期を迎えたご夫婦に見ていただきたいと思います。なぜならそこには、忘れかけていた伴侶に対する愛情や尊敬、慈しみの念を思い出させてくれるものが、きっとあると思うから。
【作品データ】
「シンデレラマン」Cinderella Man
9月17日より丸の内ピカデリー1他全国にて公開
監督:ロン・ハワード「アポロ13」「ビューティフル・マインド」
出演:ラッセル・クロウ、レネー・ゼルウィガー、ポール・ジアマッティ
2005年/アメリカ/144分/ブエナビスタ配給
写真クレジット(C)Universal Pictures-Miramax Films-Imagine Entertainment.