ビャンバスレン・ダバー監督/ドイツ
材料(登場人物)ナンサ(ナンサル・バッドチュルーン)
父(ウラジンドルジ・バッド・チュルーン)
母(バヤンドラム・ダラムダッディ・バッドチュルーン)
老女(ツェレンプンツァグ・イシ)
次女(ナンサルマー・バッドチュルーン)
長男(バトバヤー・バッドチュルーン)
犬ツォーホル
<ジンギスカン料理の国の幸せ家族にニンマリ>
大きいぞ。それに、気持ちがいいぞ。全編通して、どこまでも続くモンゴルの大草原。見ている間、ずっとこの映画の時間が終わらないように願っていたくらいだ。しかも、小さな女の子と子犬の話なんです。くくぅ~~。この2ショットが、とにかくかわいく、癒し効果倍増! 加えて、小さな妹と弟も、これまたかわいく、さらに、くくぅ~! 思いっきりカメラの前を横切ったりして、自由にのびのびと登場します。
と、スクリーンの表面はこんな感じだが、その実、非常に奥深いのがこの映画。世界的評価の高かった「らくだの涙」(ルイジ・ファロルニ監督と共同監督)のビャンバスレン・ダバー監督の最新作。実在の親子がそのまま出演し、6歳の少女を主人公に、子犬との出会いと遊牧民の一家の暮らしを描いた心温まる一作だ。モンゴルの昔話や精神性にも触れ、遊牧民の暮らしと近代化の波という草原の現実問題もからめている。
モンゴルの大草原に遊牧民の一家が暮らしている。
父、母、6歳になるナンサと、小さな妹と弟。お母さんに頼まれてお手伝いに出かけたとき寄り道したナンサは、賢い子犬と出会う。「ツォーホル」と名づけて、家に連れて帰ったが、お父さんは犬を飼うことを反対されてしまう。「全部は思い通りにならないものさ」とお母さんになだめられるナンサだったが……。
思えば、少女が犬を拾い、飼うことを反対されるという話は、世界中によくある話だ。
しかし、この映画はよくある映画ではない。その秘密は、遊牧民の暮らしぶりをじっくりと撮り上げたころある、と私は思う。
子どもたちが雲を見ながら遊ぶ。馬や羊といつでも一緒だ。お母さんの手元は忙しい。乳しぼりをしたり、チーズを作ったり、手動のミシンで服を縫ったり。町に行くのにバイクを飛ばすお父さんは、たくましくて威厳のある存在だ。
ナンサは、とてもよくお手伝いをする。たった6歳だが、馬を乗りこなし、一人で放牧にも行く。小さな妹、弟たちの面倒も見る。お母さんは当たり前のように、ナンサにお手伝いを頼む。「まだ、小さいから」とか「邪魔になるから」などと言って、我が子にお手伝いをさせない日本の親に見せたい光景である。
ドーム型の住居ゲルは、草原を広い宇宙に例えるならば、ポツンと漂う一つの天体のように美しい。カメラは惑星内に送られた探査機のようだ。寄り添いながら、ていねいに映し出していく。家族の動きはカメラをまったく感じさせない。それは、ダバー監督によれば「瞬間を待つ」作業だそうで、ドキュメンタリー出身の監督らしさが発揮された形となった。
そして、なんといってもゲルの解体シーンがとても面白い。なかなかお目にかかれない貴重な映像であるだけでなく、なんと美しいシーンなのだろうか。
私たちの生活は、なんとせせこましいのか。物があふれかえっている生活って、実は何も持っていないことなのではないか。観終わった後、物欲が消えていく……。確かなメッセージが届くだろう。[文・イラスト、上村恭子]
(12月23日からシャンテシネにて公開。後、全国順次公開)
☆プチ見どころ
その1 犬がラッシーのような名演技(?)を披露。なんと、本年度カンヌ国際映画祭で、犬の名演に贈られるパルムドッグ賞(映画祭の最高賞パルムドール賞をもじっている)を受賞し、その演技が国際的に認められた。
その2 妹だと思っていたら、弟だった末っ子。
2005年11月30日