【ウィーン会川晴之】国際原子力機関(IAEA)が31日、国連安保理に提出したイラン活動報告書は、安保理が求めた8月31日の期限切れ目前の24日にイランが濃縮活動を再開するなど、国際社会の要請に対し挑戦的とも言える行動を繰り返していることを示した。イランは9月中旬に予定される安保理審議を見据えながら、巧みな外交戦術を今後も展開するのは確実で、国際社会は対応に苦慮しそうだ。
イランは安保理常任理事国(米英仏中露)とドイツの6カ国が濃縮停止への包括見返り案をイランに手渡した6月6日にもウラン濃縮活動を再開するなど、国際社会の圧力が高まるたびに挑戦的な行動を繰り返している。その一方で、8月中旬にいったんは査察官の立ち入りを拒否した中部ナタンツの商業用大規模濃縮地下施設への査察や、数次査証(ビザ)の発給を報告書提出期限直前に許可するなど、巧みな外交戦術を行っている。
ウィーンでイランとの交渉に当たる外交官はイランの手法を「バザール商法」と呼び、「わかっていてもだまされてしまう」(西側外交筋)と苦笑。また、インド発祥とされるチェスのルールをペルシャ(イラン)が整備・確立し、9世紀前後に欧州に伝えたことに関して、「チェスの王者であるイランに対抗するには、相当の知恵と頭脳が必要」(別の西側外交筋)と指摘する声もある。
今回の報告書では、濃縮原料の六フッ化ウランを注入せずに遠心分離機を運転する期間が長く、イランがウラン濃縮に予想以上に手間取っている実態も分かった。
米シンクタンク「科学・国際安全保障研究所」(ISIS)は予想以上に増設が遅れている点を指摘するものの、一方で濃縮計画の遅延は(1)技術的な障害(2)外交交渉による解決も模索しているための政治的措置(3)米国などによる空爆を想定し、発見されていない秘密施設で継続中--などの見方を紹介した。
02年夏に発覚したイランの核開発計画は、その目的をはじめ、真相は依然として不明な状態で、相手の手の内が見えない中での心理戦を交えた駆け引きが今後も続くとみられる。
毎日新聞 2006年9月1日